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GRist

GRist 49 佐藤可士和さん

こんにちは、野口(社員N)です。
今回のGRistは、アートディレクター佐藤可士和さんです!ユニクロ、国立新美術館、セブンイレブン、幼稚園や大学から病院、最近はカップヌードルミュージアムからヤンマーなど、挙げだしたらきりがないほど幅広いジャンルで活躍されている可士和さん。その思考法にも興味がつきません。可士和さんの経営する株式会社サムライのオフィスはシンプルで機能的で、いつも、そこにいるだけで感覚が研ぎすまされるような気がします。そんな素敵なオフィスで取材をさせてもらいました。

GRist 49 佐藤可士和さん

■可士和さんの仕事術

野口(以下 野):今日はお聞きしたいことが2つあって、1つは幅広いジャンルでアートワークという領域を越えた仕事をこなす仕事術。そして、2つ目はもちろん、カメラのデザインについてです。

可士和(以下 可):はい、よろしくお願いします

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野:今現在、いくつくらいのプロジェクトに関わっていますか?

可:大小合わせて、小さいのっていうか、あまり頻繁に動いていないものも合わせると、30くらいはやっています。でもすごく大きいのは、うーん、それでも10くらいはやってますね。

野:自分の仕事のキャパというのはどう考えていますか?

可:キャパって言われると常に超えているんですけど(笑)、超えている状態が常に続いていて、人間すごいなと思うのは、慣れるんですよ。慣れて、処理能力はすごく上がります。結局、物理的な365日24時間の中でやるしかない、という。

野:いや、普通はそう簡単にはいきませんけど。仕事が雑になる人、固まっちゃう人、いろんなタイプがいますが、やはり個人のキャパってそれぞれあると思います。キャパというより、その人の「仕事力そのもの」なのかもしれませんけど。

可:大学卒業して博報堂入った頃は、毎日帰るときにポストイットに翌日やることを書いて机にベタベタ貼ったりして、ほんと一杯一杯な感じでした。当時はクライアント1つ2つ、しかもグラフィックのような仕事だけだったのに、です。今は、分業がうまくできるようになっています。マネージメントは妻が、その他の業務もスタッフが対応してくれてます。分業することで、自分がやることの純度を高くできるような環境を、10年くらいかけて作ったんです。

野:そうなると、いかに優秀なスタッフを集めて育てられるか?が重要ですね。

可:そうですね。スタッフには、「仕事のやりかたをデザインしろ」とよく言っています。どうやったら効率よく、スムースに、かつミスなく、人に迷惑をかけずにやれるのかっていうのを、いつも皆で試行錯誤しているんです。

野: 基本的なことをとても大切にされている。そういうスタンスの発露って何なのでしょう?

可:僕は、いかに何をしたら、仕事が最も早くクオリティ高くできるのか、っていうことを考えていくのが楽しいんです。妻やスタッフと、「もっとこうした方が楽なんじゃないか」「コレはムダなんじゃないか」というようなことを、よく話します。

野:まさに、「超整理術」ですね。

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可:「サムライは、働き方を実験するところだ」と当初からスタッフに言ってきました。ここは作業場ではなく、ワークデザインの作品になるようなことを意識して仕事をしようと言っていて、「サムライで働くことが作品だ」と。

野:「事務処理」ではなくて「働き方の実験」と言われた途端に、伝票処理もクリエイティブになってくる。そんな意識を持った集団、すごく強いチームですね。これはいろんなことに応用できそうだなあ。

可:うちは、自分の机に引き出しもないし、1人の作業スペースは非常に小さいけど、十分仕事ができています。掃除や整理もほとんどやらない、当然、年末の大掃除もない。多少のキャッシュは貯まるけど、「使ったらしまう」というとてもベーシックなことだけ繰り返せばいいんです。

野:たしかに、これだけ整然としていたら、ここ(ミーティングルーム)にハサミや紙を置きっぱなしにはできない(笑)そういう空間になっているんですね。

可:整理されていれば、未整理なものが目立ちます。整理は、モノだけではなくて、データの整理も同じです。仕事のデータをどうやって整理するかとか、そんなルールばっかり考えているんですよ。そして、一度決めたルールを日々アップデートしている。

野:うちのデザイナーには、私物とかで机を埋めて、秘密基地のような空間作ってるタイプもいます。事務所にはそういう秩序を乱すような人はいないんですか?

可:いない。そういう人は採用しないし。(笑)

野:わかるものですか?

可:パッと見たくらいではわからないけど、それでもわかりますね。

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■プロジェクトは「人」

野:ルール作りをして効率化し、思考の純度を高めていくことがわかりました。でも、プロジェクト毎の頭の切替はどうですか?そういう純度の高い仕事がたくさんあるわけですよね。

可:最近のプロジェクトはブランディングの仕事が多いけど、そういう仕事は「人」みたいなものだと捉えてます。例えば30人くらい知り合いがいるとして、深く付き合ってない人でも、数回会っていれば間違えないでしょう?人を間違えないのと同じような感覚で、仕事はごちゃごちゃにはならない。例えば国立新美術館では、最初にロゴ作りなどVI(ビジュアル・アイデンティティ)をまとめてやりましたけど、その後ずっと継続的に活動しているわけではない。機会があるたびに仕事がある。例えば5周年だから、とか。そんな10年レベルでぽつんぽつんとくる仕事であっても、あなた誰でしたっけ?ってことにはならない。そういう感じで、人と付き合っているような感覚でプロジェクトをやってます。

野:このあいだ奥様の悦子さんのインタビューを読んで感心したのは、物理的な時間だけじゃなくて、頭の切り替えの時間まで考えてスケジューリングしているというところです。あとに引きずる仕事だからちょっと時間を空けるとか、軽めのやつはどんどん詰めるとか。

可:スケジュール入れるのも2人で相談しながら入れてます。スケジュール入れるときには割と事前に確認してくれる。たぶんそれじゃ終わらないとか、それはあまり時間とられないとか、案件によって変わるじゃないですか。同じクライアントで同じ仕事でも、今日は確認だけだから、とか。

野:最高のパートナー、最強のマネージャーですね。

■デザインのこと

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野:さあそれでは、デザインのことを聞かせてください。可士和さんが目指す「ミニマル」は、モノの本質的な部分や普遍的なものを抽出して、それをもとにコンセプトやデザインを磨いて行く、という風に理解していますが、その考え方自体が時間と共に変化、進化していく部分はありますか?

可:以前は、形や色のことが中心だったけど、今はもう少し「考え方」のほうに寄っていて、実際作る形や表現は、もうちょっと、どうとでもなると思ってる感じでしょうか。最近は経営的な視点で取り組むテーマが多くて、モノや表現のデザインからビジネスデザインに視点が移ってきていますので。

野:大きなベクトルを示せれば、個々のモノはそこにうまく当てはまっていく感じですか?

可:そうです。例えばセブン-イレブンのプロジェクトでは、千何百アイテムとかある。全部見てはいるけど、1個1個より全体感のほうがもっと大事です。今はざくっとやるスピード感と、それがアクションとしてバンバン出ていくパワフルな感じ、そういうこと全部が作品って感じがある。

野:いわゆるグルーヴ感ですね。クライアントも、今の可士和さんに期待して託すのは、そんな感覚なのかもしれないですね。

■クライアントが提案してくるようになる

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可:こないだヤンマーの仕事をさせてもらったのですが、最初はこちらで全部作って提案していたんです。で、ある時期をこえると、クライアント側が作ってくるようになる。これを見てください、というような提案がでてくる。

野:あれ?って(笑)

可:要するに、新しいルールを僕が作ります。そのルールが出来上がって、発表されたり、社内で承認されたりすると、社内でそのルールを運用していくことになるので、それが新しいルールに合っているかを判断してほしい、となるんです。だから、最初は全部作っているんだけど、気づいたら全然作らなくなってる(笑)。

野:ブランドやモノのデザイン提案を通して、実はルールの提案をしている。サムライの運営にも通じるものですね。だから、可士和さんの手が離れても継続できる仕組みが、そこに残っていくと。

■カメラのデザイン

野:カメラの新製品はチェックしますか?

可:はい、よく見てますよ。

野:最近はレトロ、クラシカルなデザインのものが増えています。カメラのデザインは、とてもコンサバで、たまに冒険してもすぐまた元に戻ります。デジタルになって自由度が増えたのに、です。その辺は、どのように見ますか?

可:カメラ、特に一眼カメラのデザインはスーツに似てます。今、スーツセレクトってブランドのディレクションもやってますが、スポーツウェアなどと違って、スーツやジャケットって昔から形が変わってないんです。

野:確かに、半袖スーツもすぐ消えましたし(笑)

可:結局、スーツのデザインは、襟幅が1cm変わるだけですごく変わる。最大でもそのレベルの変化の中でファッションが成り立っているんです。一眼レフは、そういう意味でジャケットみたいなものだと思います。

野:中高年だけでなく若年層も、クラシカルなデザインを評価する傾向があります。評価する言葉は違っても、ですけど。

可:それは、結局、理にかなった基本的な構造になっているからでしょうね。

野:一眼レフも、またシャープな稜線のものが増えていく流れがあります。まさに、昔流行した襟幅が又流行し出した、というような感じに似てます。一方で、これ、ワンショットで360°撮影できる全天球カメラTHETA(シータ)ですが、こういう今までの概念の枠を飛び越えた形にも挑戦しています。

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可: これ、とても興味ある。THETAはスポーツウェアのようなものだから、デザインもどんどん進化していく。この次はたとえばメガネの一部になったり、時計になったり、形が機能とともに変わっていくと想像できますね。

野:可士和さんは、GRを歴代ずっと使っていただいていますが、GRのデザインは?

可:GRは一言でいうと、「進化したトラディショナル」かな。プラダがスーツなどトラディショナルなものに、ナイロンの素材を使って一世を風靡したイメージ。ふつうナイロンでスーツ作ったらペラペラで安っぽくなるところを、フォーマルな場にも出られる服にした。デザイン力が高いんだと思うんですよ。GRはそういう感じで。レトロじゃなく進化している。

野:ありがとうございます。そういう見方は初めてで新鮮です。体の一部のように愛着が湧き、いつまでも飽きないもの、というところだけは変えずに、あとは結構広い幅でやっています。

■可士和さんと写真

野:可士和さんは沢山写真撮ってますか?忙しくて撮る時間もあまりないような。

可:あまり撮ってないですね~。撮った写真をどう管理しようかなってことが気になっちゃって。

野:それは可士和さんらしい(笑)。

可:そう、そこが気になるの。逆にカメラメーカーのみなさんはどうやって管理してますか?どうすると一番スマートなんでしょう?

野:僕は単純で、月単位でフォルダ作って、そこに全部投げ込んでます。いろいろ試しましたけど、「何年の何月頃」というのが、一番記憶を辿りやすいんですね。というか、これから「可士和流 写真整理術」を聞く予定だったんですけど。(笑)

可:すばらしい整理ソフトが早くできないかなーって、思ってます。以前、2万枚以上の写真の管理で困った経験などもあるので。

野:そういうものができたら、写真をもっとたくさん撮るようになるかもしれませんね。可士和さんの写真、見てみたいですよ。写真以外のアーティストの写真は、それぞれが面白いですから。

可:今は、子供の記録とかだけで、いい写真撮ろうと思ってないから。いい写真撮ろうと思うと、いっぱい撮ってセレクトして、完全にデザインやるみたいで、もう疲れちゃって、仕事みたいになっちゃうから。(笑)

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野:"表現する"という意味で近いから、逆にやり出したら中途半端にはできない、ということなんでしょうね。ちなみに、どんな写真家が好きですか?

可:最近で言えば、グルスキーとか。このあいだ国立新美術館でグルスキー展があって、オープニングに本人が来ていたものだから、会わせてもらって本人に案内してもらいました。

野:どの辺に興味があるのですか?

可:対象が普通のものなのに普通じゃなくなるっていう、「おーここ撮るか」ってのがすごくセンスいいです。ご本人に聞いてみたら、ほとんど合成だと。だから、ポストプロダクションがすごく優秀なんでしょうね。つまり、グルスキーは写真家というより、アートディレクターみたいな人。だから自分と近いものがあって惹かれるのかもしれないです。

野:写真家ではなくデザイナーっぽいと。

可:そうです、または、奈良美智さんじゃなくて村上隆っていうか。村上さんも、構想をつくって原画を描くんですけど、そのつぎにMac班やペイント班ってのがいる。分業というか工房ですよ、アルチザン的な。僕はやり直しが効くことのほうが好きなんです。「あ、失敗しちゃった」みたいのがすごく嫌で、この筆がもうちょっと右に寄ってたら良かったなあ、みたいなことを絶対思うし、そしたら修正できるほうがいい。

野:"感性の一発勝負"とは真逆ですね。

可:肉体的なアクション、身体性で作品を作ろうと思ってないんです。写真は、基本はやり直しきかないものでしょうけど、グルスキーはそうじゃない部分が多いから。

野:その他には?

可:自分ではできない感じでティルマンスなんかも好きなんですけど、それはロックスターを見ているようなものです。僕から見ると、写真家ってロックンロールスターっていうか、ミュージシャンっぽい。その瞬間を切り撮るライブ、憧れますね、いいなー俺もそういう性格になりたいな〜みたいな。

野:でもルールから入っちゃうんですね(笑)

可:そうそう。(笑) 僕がミュージシャンになったとしても打ち込みでバシっと作っていく。

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野:ファインアートなどの創作欲求はありますか?

可:憧れとしてはありますよ、もともとアートが大好きなので。現代美術なんかも前から好きですから。僕、ダミアン・ハーストとか好きなんですけど。でも、あの規模のことをやろうと思うと、成功した人にしか作れないっていうか。まず発表する場が確保できて、制作の場が確保できて、作る前から投資されて、とか、かなりプロジェクト的にやらないと。で、やるんだったらデカイものが作りたいという考えが強くて、でも日本だと天井低いなあとか思ったり。作品は環境より大きくできないけど、デザインは社会の力を使ってやれるから、アートより自由で大きなことができるかもしれないとか。いろいろ考えるわけです。

野:仕事がメインストリームいっているから、サブカルな領域でもっとプライベートな創作をしていくのも見てみたい気がしますけどね。

可:サブカルというか、ステップワゴンやった当時のマインドは、すごくパンクなものでした。サブカルはメインへのカウンターだし、そういう部分がなければ、美大なんか行かないし。だから、嗜好としては今もあります。

野:翻ってみると、いま、そういうラディカルなものを、閉塞感のあるカメラ市場の中で、挑戦しなければいけないと思っているんです。

可:写真自体は携帯カメラが普及して、ショット数自体はすごく増えました。あと文章を書く量も激増している。動画も、今ダイワのCMなんか全部5Dで撮っている。いろいろなチャンスはあるということだと思います。もう、スチルはGRで充分なので、それ以外のところでこれからGRが進化していくのも、ユーザとしては楽しみにしたいですね。

■お気に入りの一枚
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伊勢神宮式年遷宮での献茶式に参列した時、非常に神秘的な空気を感じてシャッターを押しました。

~取材を終えて~

クリエイターというと、「風を読むアンテナ」と「発想のセンス」で勝負しているイメージを抱きがちです。可士和さんの話しから、クリエイティブワークでも、クールにロジカルに仕組み作りをしていくアプローチの大切さを再認識できました。だから、可士和さんの仕事が、プロダクトやロゴのデザインに留まらず、グランドデザインの仕事に拡大してきたことは必然なのだと感じました。写真の世界でも、「なんとなく、その場の空気を、感じたまま切り撮ってみました、私の感性を見てください」というのはありがちだし、楽しみ方として否定するものではありませんが、撮って見せるまでのプロセスを強く意識することで、もっと写真の楽しさが広がるかもしれませんね。
このGR BLOGも「働き方の実験をしている」そんな場、そんなチームにしていけたら、もっと皆さんと一緒に楽しめるようになるだろうな、と思いました。

■プロフィール

佐藤可士和 Kashiwa Sato
アートディレクター/クリエイティブディレクター

博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。多摩美術大学客員教授。著書はベストセラー「佐藤可士和の超整理術」(日本経済新聞出版社)ほか。
http://kashiwasato.com/

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