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GRist

GRist 62 細江英公さん

久々のGRistの紹介になります。
今回は、2014年の締めとして、写真界の大御所、細江英公さんの登場です!
GR DIGITALで撮りおろしたロダンの写真展を銀座で開催したのが4年前でした。寒風強い師走某日、四谷三丁目の事務所にお邪魔させていただきました。

GRist 62 細江英公さん

■市村清との出会い

野口(以降:野):2009年、GR DIGITALIIIプレス発表会のゲストとしてお越しいただきました。その節はありがとうございました。

細江(以降:細):ああ、そんなこともありましたね。

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野:発表会の場所となった弊社大森事業所の前庭に、創業者の市村清の胸像を見つけて、思い出話を聞かせていただきました。

細:そうそう、馬込ですね。「光画月刊」の仕事で、北野邦雄と市村清さんの対談があって、僕はその写真を撮ったんです。市村さんは、必死に撮影している僕を見て、「君、頑張るね」と暖かく声をかけてくれ、いろいろお話しさせてもらいました。眼差しが優しい方でした。

野:その雑誌、見てみたいなあ、今度探してみます!当時はどんなカメラを使っていたのですか?

細:リコーフレックス。まだまだカメラはお金がかかるものだったけど、リコーフレックスは安価だったし。

野:当時は、どんな生活だったんですか?

細:コンテストでの副賞を収入源にしながら生活してましたね。日本靴協会だったかな?その主催で「日本靴写真コンテスト」なんていうのもあって。靴の写真を撮るだけじゃ面白くないから、綺麗な足を撮って応募してね、それでは一等賞をもらいました。

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■GRはピッコロ

野:北野邦雄さんと言えば、「ライカは宗教、コンタックスは哲学」という言葉を引用して、「GRは?と考えると『肉体の一部』と言うのが相応しいのではないか」と言っていただきました。これは僕たちにとっては、最大の褒め言葉というか、エールとして、今も大切にしています。

細:使い手の一部になるのが、優れた道具です。カメラは道具ですから。

野:「GRシリーズを楽器と考えるとフルートとかハーモニカのように人間の部分と直結するものであるような感じ、小さいからピッコロかな」ともおっしゃっていただきました。

細:うん、カメラは重くて大きい方が偉い、という固定観念はまだ依然としてあるんですよ。だけど、こんな小さくてオモチャみたいなカメラでも良い仕事ができるんだ、ということをもっと知らしめなくちゃいけないね。僕は、これ一つでロダンを撮ったわけです。

野:道具は選ばないと?

細:カメラでもスマホでも何を使おうと自由です。でも、大切なのは、その機材の性格を理解して、完全に自分のものにしない限り、なにも始まらないのです。

野:使い込むということでしょうか?

細:単に操作を覚えて慣れるだけでなく、もっと、例えばレンズの性格とか癖、味わいと言ってもいいけど、そういうところまで知り尽くすことです。

野:肉体の一部って、そういうことなのですね。

細:演奏家と楽器の関係とも共通するものです。

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■ロダン×GR

野:発表会の翌年の2010年、銀座4丁目交差点のギャラリーRINGCUBE(現:リコーイメージングスクエア銀座8階A.W.P)で展覧会「細江英公・人間ロダン展」を開催しました。フランスのロダン美術館で撮影した作品を和紙にプリントし、掛け軸や屏風の表装をして展示したもので、あれは素晴らしかったです。
<展示風景の一部>
https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/dc/ringcube/event/rodin_2010.html

細:あれはなかなか面白かったね。ロダン美術館には正式なルートで撮影許可を取ったし、美術館スタッフも僕のことを知っていてくれたから、それなりの態勢で迎え入れてもらったんですよ。

野:日本の有名な写真家がロダンを撮りにくるぞ!と。

細:でも、そこで、僕がこんなちっちゃなカメラを取り出したもんだから、彼らは驚いていました。(笑)まあ、8×10などを想像していたんでしょうね。

野:スタッフの気持ちがわかります(笑)観光客の方が立派なカメラ持ってるし。

細:大判で芸術作品を撮るスタイルに対する革命、と言ってもいいと思います。小さいカメラだから、彫刻作品の裏側に手を回して裏側を撮ることもできましたしね。

野:だから、躍動感を感じるのでしょうか。プリントや展示方法もユニークでした。

細:フランスの国旗に合わせて赤青白の掛け軸にしたのだけど、フランス大使館の方々も喜んでました。

野:ロダンはその後も撮り続けていると聞きました。

細:屋外の作品は、季節や時間で光が変わるから。だから、何度行っても毎回新しい表情のロダンに出会えるんです。

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■写真への思い

野:ちょっと漠然とした質問なのですが、細江さんの写真に対する"思い"を聞かせていただけますか?

細:写真は、「趣味」であり、それが「文化」であり、「歴史の記録」をするもの。自分の楽しみだけでなく、人を幸せにできる。生活の一部です。

野:写真を趣味にする人だけでなく、一般の人にとっても、もはや、なくてはならないモノになってますね。

細:写真の本質は「記録性」なんだけど、決して無味乾燥なものではないんです。人が介在するから。

野:写真には人格が出ると?

細:上手な写真でも、凄い感動を生むものと、ただ綺麗というだけのものがあるでしょう。その面白み、深みが写真の魅力とも言えます。

野:テクニックを磨くだけでは辿り着けない部分ですね。

細:だからね、カメラメーカーには、そういう機微や魅力を、理屈ではなく体で理解できて、「カメラが好きだからカメラを作っている」と言える人が、トップであって欲しいです。そういうメーカーから、物語が生まれるんです。

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■若き写真愛好家へ

野:細江さんは清里フォトアートミュージアムの館長として、ヤングポートフォリオという取り組みを続けています。35才以下を対象に作品を公募して、収蔵作品として買い上げるという、ユニークな企画。これまでいろんな形で、若い方の指導をされてきたと思います。

細:教えるということは、学ぶことでもある。以前アメリカの大学に招聘されて、ワークショップをやってました。ヌードなんだけど、テーマは「自然と肉体」。ヨセミテで実地講習をして、僕の撮影の仕方を見せて、こう撮ってみなさいと教える。

野:贅沢なワークショップですね。

細:黙っていると勝手にいろいろ撮りだしてしまうんだけど、まずは僕の言ったとおりやってみなさいと。やりたければ同じ場所から撮ってみていいよと。

野:まずは基本を徹底的に身につける、ということなんですね。

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■2015年の細江英公さん

野:来年の予定、今やりたいことなどを教えて下さい。

細:今年、体調を悪くした時に、外に出られないから、コンタクト帳をまとめて見返したんですよ。

野:どのくらいあるんですか?

細:20冊で、1冊50ページとしても1000ページ以上ですよね。それでも随分整理したものなんだけど、それを1枚づつ、じっくり見直したんです。

野:すごいボリュームですね。

細:それで改めて感じたのは、当時を鮮鋭に思い浮かべることができるものは、写真として良いものが多いんですよ。

野:なるほど

細:だから、来年はその中から選りすぐって、本にしたり展覧会をしたりできたらいいと思っています。既に準備も始まっているものもあります。

野:門外不出の作品に、光が当たるんですね! 楽しみです。


■お気に入りの一枚
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"私はロダンの作品を彫刻ではなく人間として撮影した"
撮影:細江英公、2008年

~取材を終えて~
帰りがけに「GRは30万とかもっと高いものにすればいい」と言われました。卑屈にならずに、胸を張って、堂々とそのくらいの値付けができるような自信作を作りなさい、と鼓舞されたようでした。マーケティングでモノを作らない、ということを改めて考えてみたいと思います。


■プロフィール

細江英公(ほそえ えいこう) Eikoh HOSOE

写真家、清里フォトアートミュージアム館長、東京工芸大学名誉教授、(社)日本写真家協会名誉会員、(社)日本写真協会会員、日本写真芸術学会会員

1933年山形県米沢市生まれ。本名・敏廣。18歳のときに[富士フォトコンテスト学生の部]で最高賞を受賞し、写真家を志す。1952年東京写真短期大学(現東京工芸大学)写真技術科入学。その年の秋にデモクラート美術家協会の瑛九と出会い強い影響を受ける。1954年卒業。1956年小西六ギャラリーで『東京のアメリカ娘』にて第一回個展開催。1960年『おとこと女』、1963年『薔薇刑』で評価を確立し、1969年『鎌鼬』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。
主な写真集に「おとこと女」、「薔薇刑」、「鎌鼬」、「抱擁」、「ガウディの宇宙」、「ルナ・ロッサ」「おかあさんのばか」「胡蝶の夢 舞踏家・大野一雄」、「死の灰」などがある。また、米児童文学作家B. J.リフトン女史との共著(英語版)で「Taka-chan and I」、「A Dog's Guide to Tokyo」、「Return to Hiroshima」、「A Place Called Hiroshima」などがある。
1998年、一連の作品により紫綬褒章を受章。2003年世界を代表する写真家7人のひとりとして英王立写真協会創立150周年特別記念メダル受章。2006年、写真界の世界的業績を顕彰するルーシー賞(米)の「先見的業績部門」を日本人として初受賞。2007年、旭日小授章を受章。2008年、毎日芸術賞受賞。2009年『鎌鼬 新装普及版』を出版。同年、ルッカ・デジタル・フォトフェスティバル(イタリア)の2009年度マスター・フォトグラファーに選ばれ、代表作を写真絵巻・屏風・掛け軸で展示。2010年、ニューヨークにてナショナル・アーツクラブ(米)より日本人として初めて第18回写真部門生涯業績金賞を受賞。同年秋、文化功労者に選出される。

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