GRist 28 前川貴行さん
こんにちは、えみっふぃーです。
今回のGRistは、現在 銀座のRING CUBEにて「銀座どうぶつ園 -ほぼ原寸大写真展-」を開催されている、フォトグラファー 前川貴行さんです。
■写真展 「銀座どうぶつ園」開園にあたって
えみっふぃー(以下 え):さっそく「銀座どうぶつ園」に行ってきました。
いままでとはかなり趣向が違った、おもしろい写真展ですね。
来館される層も、ずいぶん違うみたいですよ。
園児など、子供たちが多いらしいです。
前川(以下 前):被写体が動物なので、僕の写真展は、子供や親子連れで見に来る方が多いですよ。
え:昨日も、入口の虎の写真を見て泣き出してしまった子がいたらしいですよ。
"ほぼ原寸大"で写真を展示しているので、大きくて怖かったのかも?(笑)
同じコンセプトで、いままでにも展示をしたことはあったのですか?
前:プリントが大きい写真展はありますが、原寸大は初めてです。
原寸大の展示だったらRING CUBEの円筒状の空間を生かせるのでは、というお話をいただいて、動物の大きさ(原寸)にプリントを合わせるというのは面白い発想だと思いました。
え:初の試み、ということで、工夫や苦労されたことはありますか?
前:大きく2つあって、まずは何の写真を入れるのか悩みました。
どうぶつ園なので、なるべくたくさんの種類をおきたいですよね。
でも、原寸大なので、パネルの大きさを考慮する必要がある。動物の配置も、生息環境が違うもの、例えばシロクマとライオンを一緒に置かないようにしないといけない。
だから、配置については1/10スケールの模型を作って、今回空間デザインを担当してくれたリコーの総合デザインセンターのメンバーと何度も何度もシミュレーションをして決めました。
もう1点は、ライティングですね。
なるべく自然に見えるように、最後まで自分で微調整をしていました。
備品のライトでは足りなくて、公開直前になってデザインセンターのデザイナーさんに秋葉原でライトを買ってきてもらったり。
え:苦労の甲斐あって、RING CUBEの壁面がカーブした形状が生かされた空間になってますよね。
「この先になにがいるんだろう?」というワクワク感があります。
え:今回展示されている写真のキャプションを見ていて、サファリパークや動物園で撮られた写真が結構多いなと思ったのですが。
前:タイトルが"どうぶつ園"なので、野生の写真ではなく、動物園の写真の方がリアリティが出るだろうと思って。なるべく動物園の写真を選ぶようにしたんです。
え:なるほど! 確かにお昼寝しているライオンなんて、動物園でしかみられないですよね。
■フォトグラファーへの転身
え:話は変わりますが、会社勤めをされていて、突然写真家に転身されたとか。
経緯をお聞かせいただけますか?
前:もともと、コンピューター関連企業のエンジニアだったんです。
20歳を過ぎて、海や山など、自然の中で遊ぶ機会が多くなって、自然の美しさに触れるうちに、何かの形でこれを残したい、と思うようになったんですね。
最初は、絵を描いてみたんです。でも、すぐに、あまり才能がないことに気がついて。
じゃあ、カメラかな、と。
写真は、旅行に行ったときのスナップくらいしか撮ったことがなかったんですけど、
他の表現手段と比べたら敷居が低いので、カメラならできる、と無謀にも思い込んだんです。
家に古い一眼レフがあったので、それを持って初めて砧公園に写真を撮りに行ったときから、「プロになろう」と、心に決めていました。
え:最初から決めていたとは。そういう方はなかなかいらっしゃらないと思います(笑)
そのころから動物を撮っていたんですか?
前:いえ、はじめは海や山で風景写真を撮っていました。
自然の中にいると、野生動物に遭遇する機会があって、その出会いが衝撃的だったし、だんだん出会うことが楽しみに思うようになってきたんです。
その後も、自然の写真を撮り続ける中で、星野(道夫)さんなど有名な自然・動物写真家の作品を見る機会があって、「ネイチャーフォトってかっこいいなぁ」と思うようになって。
ちゃんと学ぼう、と思い、田中(光常)先生の元に入門しました。
■コンパクトデジタルカメラの魅力
え:動物を撮るとなると、今回の写真展でもそうですが主な撮影機材は一眼レフですよね。
PhotoStyleのPhotographers gallery掲載用に、リコーのデジタルカメラで野生動物の撮影をお願いした際に、初めてコンパクトデジタルカメラを使われたのですか?
前:はい、正直、それまでコンデジは眼中にありませんでした。
お話をいただいたとき、自分自身、実験的なことを何かやりたいなと考えていたタイミングだったんです。
PhotoStyleではCaplio R6とCaplio 500Gwideを使わせてもらいましたが、使ってみると機動性は高いし、扱いが一眼と比べて格段に楽なので、撮っているうちにどんどん楽しくなってきて。
コンデジなら片手でいいし、藪の中に手を突っ込んでも撮れますからね。
どうなるか分かりませんでしたが、やってみて表現の幅が広がりましたし、やってみて良かったと思っています。
コンデジは構えずに撮れるので、一般の人が写真に触れるきっかけとしてとてもいいですね。
え:GR DIGITALだと、さすがに動物写真はつらいでしょうか?
前:PhotoStyleのギャラリーにGR DIGITAL IIで撮影した「岬馬」を掲載していますが、単焦点ならではの撮り方もありますよ。
ズームもないし、どうするんだと思うかもしれませんが、写真は制約があったほうが自分で工夫をするので、テクニックは向上します。
制約がある場合は、テーマをもって撮影するといいと思います。
岬馬の撮影のときは、単焦点レンズのみで望遠的や標準的、マクロ的といった多彩な表現にチャレンジしようと思いました。
え:なるほど。自分でいろいろチャレンジしてみることが大切なんですね。前川さんには、同じくPhoto Styleのフォトテクニックのコーナーにも動物写真を撮るときのコツを掲載いただいているので、みなさんにはそちらも見ていただきたいです。
■「銀座どうぶつ園」のみどころ
え:では、最後に、これから「銀座どうぶつ園」に来園される方に、みどころやメッセージをお願いします。
前:動物の大きさ、質感だけでなく、その動物の存在感と、棲む環境の臨場感を体感してください。
図鑑も動物は原寸大ですけど、写真展では動物に背景があるのが大きく違うところで、そこが「銀座どうぶつ園」のこだわりです。
え:動物そのものの写真というより、そこに生きている動物を感じる、ということですね。
前:人間と動物に上下関係はなく、同じ地球に棲む同じ命である、ということを感じて欲しいです。
自分自身、写真を撮っていて、そう強く感じています。
え:銀座どうぶつ園は8月末までの開催ですが、その後は9月17日から品川のキヤノンギャラリーSで写真展が開かれるんですよね。
前:キヤノンギャラリーのほうはアラスカやカナダの写真展です。
え:そちらもぜひ拝見させていただきます!本日はありがとうございました。
■取材を終えて
いつも自然を相手にされているからなのか、気負わず、自然体でいるところがとても印象的でした。
と思えば、なにごとに対しても妥協せず、自らのこだわりを貫き通す一面も持っており、これらがあいまって素敵な作品を生んでいるのだと思いました。
機会があれば、写真展でぜひその素晴らしさを体感してください!
前川貴行(まえかわ たかゆき)プロフィール
1969年2月24日東京都生まれ。 著作 オフィシャルサイト 「Earth Finder」 |
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