GRist 32 糸崎公朗さん
こんにちは、ヒロです。
今回は「フォトモ」、「ツギラマ」、「路上ネイチャー」、「デジワイド」等、多彩な作品作りで知られる糸崎公朗さんの登場です!! 糸崎さんは以前から作品作りにリコーのデジタルカメラを使用頂いており、写真集 GR SNAPSにも写真を提供頂いています。
糸崎さんのブログの一つ「路上ネイチャー」ではGR DIGITALで昆虫の写真を沢山撮影されていることもあり、昆虫写真好きの私としては話を聞くだけでなく、糸崎さんと一緒に撮影をしながらカメラの設定を教わりたい!!という強い想いもあり、雨が降りそうなあいにくの天気でしたが、 まだ自然の残る都内某所で取材をさせて頂きました。
<今日の持ち物拝見>
ヒロ(以降 ヒ):
今日は暑い中どうもありがとうございました!!ところで普段はどんなカメラの装備を持ち歩いているのですか?
糸崎公朗さん(以降 糸):
歩きながら撮るのがメインなので必要最低限のものしか持ち歩きません。だから実用的なコンパクトカメラがメインですね。
たまに高倍率マクロ等の大き目のシステムを加えることもあります。それからミニ三脚や高い所にいる昆虫を撮影する為の小道具も常に持ち歩いています。
ヒ:CX3に付いているこの魚みたいな形のものは何ですか?よくお弁当についてくる醤油の入れ物ですよね?
糸:子供向けの科学雑誌用に私が作成した「おさかなディフューザー」です(笑)。これ、意外と実用的なのですよ! 私はマクロ撮影では手振れや被写体ブレを防ぐためにフラッシュを使うのですが、光を拡散させて不自然な影が出ないようにディフューザーを装着しています。レンズ鏡胴で画面の一部がケラれるのを防ぐ効果もありますね。GR DIGITALの場合は市販のアクリルを自分で切って作っています。
ヒ:糸崎さんは工作好きでも有名ですからねぇ。いつも勉強になります!
<路上ネイチャーとは?>
ヒ:糸崎さんが撮影されている「路上ネイチャー」ってどのような意図が込められているのでしょうか?
糸:昆虫写真と言うと、普通は本来その昆虫が生息すべき自然環境で撮影している写真が多いですよね?でも実際には都会にも沢山の昆虫が住んでいます。人間が造りだした人工物と自然界が造りだした昆虫が、ある意味異質な出会いをしているのです。こんな所に虫がいたのか!!って驚くことありますよね?昆虫の背景には人工物を写しこむ、つまり昆虫写真に現代を反映することに面白さを感じています。
■写真1
糸:この写真は偽木(ぎぼく)の欄干に止まっていた、10cmほどもあるナナフシ。木の枝に止まっていたところ、風に飛ばされて落ちたのでしょう。後ろに学校の建物が見えます。
■写真2
糸:昼間からアブラゼミの幼虫がいました。ふつう脱皮は夜なので、珍しいですね。道行く人は誰も気づかないかも知れませんが(笑)
ヒ:んーっ! 確かに糸崎さんの昆虫写真の背景には必ずと言っていいほど何か人工物が写っていますね。昆虫が人間と共生していることが伝わってきます。
糸:GR DIGITALって「路上ネイチャー」に適したカメラなんですよ。
<なぜGR DIGITALか?>
ヒ:なぜ、GR DIGITALが「路上ネイチャー」に適しているのでしょうか?
糸:カメラが持ち運びしやすい大きさになっている点と、マクロに強く、広角で被写界深度が深い点ですね。道すがら撮影するので、街を歩きながら昆虫を見つけた時にポケットからサッと出してさりげなくパッと撮れることは非常に重要なんです。それから、マクロ撮影で主要被写体と背景を同時に写しこむ必要があるので広角でかつ被写界深度を稼げるカメラが良い。もちろん画質が良いことが前提ですが。GR DIGITALはマクロ撮影でも画面周辺がシャープに写ります。単焦点なので画角に迷いが出ないことも良い点ですね。GR DIGITALを持つと自分の視界が28mmの画角になるんですよ。(笑)
<昆虫撮影のコツとは?>
ヒ:昆虫撮影ののコツとか、いつも糸崎さんが心がけていることって何でしょう?
糸:昆虫をよく観察することですね。例えば、同じ種類のチョウでも逃げる個体もいれば逃げない個体もいる。昆虫写真がうまい人は同じチョウの中で逃げない個体を見つけるのが うまいんです。そういう意味で虫の生態を知るということは重要なのです。以前、昆虫写真家の海野和男さんと一緒に撮影に行ったことがあるのですが、すごく効率的に写真を撮影されていました。昆虫の生態を熟知しているんですよ。むしろ昆虫の方から海野さんに近寄ってくる印象がありましたね。それから、街中で撮影する際は、さりげなく堂々と! コソコソしないことですね(笑)。
撮影する際のコツですが、「路上ネイチャー」のコンセプトで虫を撮るとき、絞りは最小のF9.0しか使わないです。F9.0まで絞って背景のボケを最小限に抑え、フラッシュの光で被写体を印象的に浮き上げて撮影します。それから、先程お話したようにディフューザーを使うことですね。ティッシュペーパーでも代用できますよ。
■写真3
糸:コナラの樹液を吸うカブトムシのメスです。絞りF9.0で被写界深度が深いので、背景に信号待ちをしてる人がいることまで分かります。手前は実際には暗いのですが、フラッシュで明るく照明されています。
ヒ:よほどお腹がすいていたのでしょうねこのカブトムシは。小さい穴に頭だけ突っ込んでますからね。
■写真4
糸:こちらはアカボシゴマダラは外来種ですが、ここ1、2年で東京近辺で急激に数を増やしました。幼虫のエサとなるエノキに産卵する瞬間ですが、こういう場面がシャッターチャンスです。また、フラッシュ撮影のため羽のブレなどが押さえられています。
ヒ:なるほど! 被写体ブレを抑えるためにもフラッシュを使っているのですね。
<カメラの設定を教えてください>
ヒ:普段お使いになられているカメラの設定を教えてもらえませんか?
糸:マイセッティングに登録して瞬時にモードを切り替えることができる点はリコーのカメラの利点ですね。以下の設定は撮影する昆虫の大きさによって変えています。マニュアル露出でもちろんフラッシュを使っての撮影になります。
〔MY1(マイセッティング1)〕 (小さい虫用)
・マニュアル露出モード
・絞り: F9.0 (被写界深度を稼いでフォーカスの合う範囲を広げるため
に絞る)
・シャッタースピード: 1/250s
・フォーカス: マニュアルフォーカス
・フォーカス距離: 5cm
・フラッシュ: マニュアル発光 1/5.6 (ディフューザー使用が前提)
〔MY2(マイセッティング2)〕 (大き目の虫用)
・マニュアル露出モード
・絞り: F9.0 (被写界深度を稼いでフォーカスの合う範囲を広げるため
に絞る)
・シャッタースピード: 1/400s (飛んでいる蝶を撮るので速くしている)
・フォーカス: マニュアルフォーカス
・フォーカス距離: 10cm
・フラッシュ: マニュアル発光 1/5.6 (ディフューザー使用が前提)
(蝶の色によって変更する)
いずれも、Fn1: マニュアルフラッシュ(発光量を調整する)
Fn2: AF/MF
■写真5
糸:桜の幹に止まるハラビロカマキリの幼虫を撮ったら、その向こうを下校中の小学生の集団が通りかかりました。どっちも「子供」ですが、その対比が面白いです。
ヒ:糸崎さんはスズメバチをよく撮影されてますが、怖くないのですか?今日はスズメバチがいなくて個人的には安心したのですが(苦笑)、、
糸:ずばり、怖いです(笑)。ただ、スズメバチって面白いし、難しい被写体ほど撮りたくなるんです。例えばセミって表情が無いのでどうを撮っても同じ写真になりがちなのですが、ハチってしぐさや表情が豊か。まるで人間みたい。 ハチってサラリーマンだしね。いや働きバチはメスだからキャリアウーマンかな? そういう意味ではカマキリも人間っぽい。ハチにはまだ刺されたことはないですよ(笑)
ヒ:では最後に、GRについて一言お願いします。
糸:GR DIGITALは昆虫写真家の意見も取り入れてくれて、様々な撮影に対応できる昆虫も撮れるストリートスナップカメラなってきました。次はもっと撮像素子を小さくして欲しいです(笑)。被写界深度の深い写真が撮れますから。大きな撮像素子のカメラではできない、それがコンパクトカメラの利点なのです。
■取材を終えて
数年前、初めて糸崎さんに会ったのは新宿のフォトサロン近くの喫茶店でした。テーブルの上に昆虫撮影用に改造した数台のCaplioGXを並べてマニアックなカメラ談議で盛り上がり、周りのお客さんから不思議そうな目で見られてしまったのを今でも覚えています。それ以来の長い付き合いですが一緒に撮影に行くのは今回が初めて。絞りの使い方を教わったり、ディフューザーの威力を間近に見たりと大変勉強になりました。GR DIGITAL用のディフューザー、夏休み中に自分も作ってみようかな!!
糸崎 公朗(いとざき・きみお)プロフィール
1965年長野県生まれ。東京造形大学卒業。写真家・美術家。「非人称芸術」のコンセプトのもと、「フォトモ」「ツギラマ」などの独自の写真技法による作品を制作。展覧会やワークショップのほか、出版や雑誌執筆など幅広い活動を行なう。主な個展に「“FOTOMO x CITY” Multi-Perspective Sx Editions」(香港藝術中心)、「金沢をブリコラージュする。」(金沢21世紀美術館)。主な受賞にコニカフォト・プレミオ2000年度大賞、19回東川賞新人作家賞など。主な著書に「フォトモの物件」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン新社)などがある。 路上ネイチャー協会 糸崎公朗ブログ1 |
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