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GRist

GRist 12 阿部秀之さん

こんにちは。駆け出し王子です。

GRistの第12回目は、GRバッグの監修を御願いした阿部秀之先生の登場です。

阿部先生には我々も知らないようなバッグ制作の裏話をぜひ聞いてみたいと思っていましたので、取材でお会いできるのをとても楽しみにしていました。

GRist 12 阿部秀之さん

王子(以降 王):このたびはGRバッグの監修をしていただきありがとうございます。まずは、監修していただけることになった背景を教えてください。

阿部先生(以降 阿):もともとカバンやカメラケースが好きなんですよ。それだけに完璧なバッグというのはないですね。どれも必ず不満がある。実は以前にも用品メーカーとカメラバッグを作ったことがあるんだけど、そのときは満足のいくものが出来なかった。だって完成したのを試してみたら自分でも使いにくい(笑)。プランは良かったと思うけど、それがデザイナーにちゃんと伝わらなかったんです。自分で図面が引けないとバッグ作るのは難しいなぁと感じましたね。でもバッグ好きは相変わらずです。それからもしょっちゅうカメラバッグを買っていたし、リコーにもGR DIGITAL用に、良いバッグがあればいいね、なんて言っていました。そうしたらちょうど、リコーから一緒にやらないかって声がかかったんです。

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王:苦労したことがありますか?

阿:図面が引けない分、たくさん話して伝えないとならない。身振り手振りも加えてね。それでも一番最初にお願いした会社には伝わらなくて決別。スタートから半年経ったところで、請け負ってくれる会社探しからまた始めなければならなくなった。完全な再スタートです。こちらの想いを伝えるのも難しいけど、デザイナーや職人が「よし一緒にやってやろう」と思ってくれる相手じゃないとダメなんです。
やっと良い相手が見つかって進めてっても、それでもイメージしているのと違う試作ができてきてしまう。見本の皮サンプルから、これがいいなと選んでも、形になると全然違うように見えるんだよね(笑)
そしたらまた一緒にああでもないこうでもないとディスカスし、何回も試作してみるしかなかったね。
そんなところが、難しかったですね。

王:では、今回のバッグの先生としての完成度はどのくらいですか?

阿:82点かな!(笑)

王:2点が気になって、眠れそうにありません。(笑)

阿:実際にバッグを作るのは、やはり大変でした。環境に優しい素材を選ばなくてはいけないし、コストだって重要です。例えばこのマルチケースを、もう一つ付けたかった。ところがこれすごく高いので一個で我慢しました。でも好きな人には、このバッグの良さは分かってもらえると思います。職人さんがしっかり作った、手作り感があるバッグができました。

ファスナーがマチでふさがっているでしょ? 雨などのとき水が染み込んでくるのはファスナーの部分からなんです。だからこの形状が重要になる。靴も縫い目から雨が染み込むでしょう? それと同じです。こういう細かいことをデザイナーに伝えるのも大変だった(笑)。

王:なるほど。良く使う人でないと、そうしたこだわりは生まれませんね。

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阿:ストラップにもこだわりました。バックは斜めがけするからストラップに、厚みがないとよれるんです。車のシートベルトがよれるのは、幅があって厚みがないから。でも、シートベルトのような薄いストラップを採用しているバッグは多いですよ。作った人は自分で使ったことがないんだろうと思ってしまう。
ここは、「イメージは柔道着の帯です」ってデザイナーに伝えた!(笑)
しっかりした厚みで、肌さわりもとても良いと思っています。

収納部が多いのもこのバッグの特徴です。カメラや付属品以外にも、日常持ち歩く、携帯電話、文庫本、長財布、旅のガイドブックなど必要なものが入ることが条件でした。もちろん大きなバッグではありません。小さなバッグでそれを実現したかったんです。

王:色が一般的な黒ではなく、ブラウンですが理由があるのですか?

阿:最初から黒色は考えてなかったですね。
さまざまな皮を検討したけど、グローブ地調のこの革がよかった。この革に合う色がブラウンだったということです。また黒はどこにでもある色で面白くないからいやだった。
仕事に使うカメラバックは黒が多いでしょう。目立たないし、映り込んだりもしないし。でも、黒ばかりじゃつまらないから、僕は普段のバッグはベージュやグリーンのものも多い。

昔はカメラバッグは革製だったけど、コーデュロナイロンがでてきてからは、軽いし丈夫だからそれが主流になった。プロカメラマンの証として黒のコーデュロナイロンバッグみたいになって、みんな持っている。一眼レフを持って、ガンガン撮るバッグですね。

このバッグは、日帰りや1泊ぐらいで撮影に行く時に持って行きたいバッグなんです。旅行の時のガイドブックが入るサイズだし、その為のポケットがある。
大きいバッグはみんな持っているけど、小さくまとめてスッと行きたいスタイルってあると思うんだ。だから、スポーツやモデルを撮るのではなくて、風景やスナップを自分のスタイルでスッと撮る人向けのバッグだよね。うん、例えるなら風呂敷に包んで持って廻る。そのイメージかな。

王:風呂敷ですか!(笑)
ところで話は変わりますが、先生のブログは食欲をそそるものばかりですね?

阿:写真に関することは仕事でやっているから、違うことがしたいんです。本当を言うと自分が好きなことならなんでも良かった。それがたまたま「食」になったということです。
毎日のようにブログのためにコンパクトカメラで撮影してみると、いろいろなテクニックが開発できて面白かった。毎日“食べる“し、写真を仕事でなくて毎日“撮る“のが楽しいんです。これまでは一眼レフか距離計連動機ばかりで、一般的なコンパクトカメラの善し悪しはわからなかった。ほとんど使ったことがないからね。今はコンパクトカメラもすごく分かるようになりました。ブログでは仕事でない写真を楽しんでいます。

王:先生のブログは、美味しそうなものが沢山紹介されていて、とても楽しいのですが、空腹の時は見ないようにしています。(笑)

阿:50歳過ぎると、すごいと感じることが少なくなって、人生のまとめに入る。そんなふうに小さく考えないで、楽しいことをしたい。このGRバッグも、撮影を楽しむためでなく、仕事をイメージしたら、もっと全然別なものになったと思います。それはそれで面白かったかもしれないけど、最初だから撮影を楽しむためのバッグで良かったと思います。

王:それでは、普段持ち歩くカメラはどのようなものですか?

阿:一眼レフを普段から持ち歩く習慣はないです。良く写るコンパクトカメラですね。GRかGX。ブログ用にはRシリーズ。今度のR8ってカッコイイね。それで十分間に合います。
学生の頃は毎日首から一眼レフを下げていたけど、いつのまにか写真を撮るときに目立ちたくなくなった。カメラを首から下げるのではなくて、バッグから出して撮りたいと思うようになった。だからバッグ好きなのかもしれないね。(笑)

GRバッグは、ナチュラル革で、もちろん生き物だったから、生きていた証、つまり、多少は最初から傷があるかもしれない。それに、使っていると柔らかい皮だから、さらに傷もつくけど、その良さ、味が分かる人に長く使って欲しいですね。


ポルトガル リスボンで撮影。リスボンというと情緒的なイメージが多いのだけど、カラッと明るい景色もある。いつどんなときにでもサッと対応できるのがGRの魅力だ。


クロアチア ザグレブで撮影。歩き回っていたら裏路地に迷い込んだ。静かで時間が止まっているような気がする。小さな角を曲がると、この景色が出迎えてくれた。

 

■取材を終えて

カメラ機材やバッグだけでなく、人間「阿部秀之」としてのこだわりを聞かせていただくことができました。とても楽しくて、あっという間に、いただいた時間が過ぎてしまいました。
そして、「楽しむ」という言葉を先生は沢山言われていました。仕事を「楽しむ」、人生も「楽しむ」。でも、実行するのは難しいことですよね?先生には取材中も笑顔を絶やさず、楽しそうに、色々なお話をしていただきました。まずは、「笑顔」でいることが、先生に近づく第一歩かな?と思いました。



阿部秀之先生プロフィール

公式ブログ「はい。阿部秀之です!」
http://ameblo.jp/abe-hideyuki/

東京生まれ。ヨーロッパの風景、ポートレート、コマーシャルなど、幅広いジャンルを撮影。1987年から日本カメラグランプリ選考委員。フォトエキスポ講師を歴任。現在はアサヒカメラ、月刊カメラマンに連載がある。撮影だけでなく、技術的な解説も得意とする。

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