1969年の夏、ニューヨークのブリッカー・ストリート・シネマという映画館で観た『The Endless Summer(1966年制作、邦題:終わりなき夏)』という映画の不思議な映像を僕はまだ忘れない。
波を追いかけて南半球を旅する男たちの話だ。監督はまだ若かったブルース・ブラウンという男で、その映画はニューヨークで10週を越えるロングランを続けていた。ニューヨークという大都会の中で波をひたすら追いかける若者たちの姿がとても新鮮だったのだ。
波を追いかけて
それから数年後、僕はハワイでとてつもなくダイナミックで美しい波の写真をサーフィン専門誌の表紙上に発見してしまった。「あのような波の写真が撮りたい」いてもたってもいられなくなって、すぐに波を追いかけての旅が始まる。
ハワイ、オーストラリア、アフリカ、アジアと波とサーファーを追い続けた旅は10年くらい続いただろうか。最初は望遠レンズで遠くから撮っていたがサーファーたちが波を撮るためにカメラを手に波の中へ飛び込んで行く姿を目の当たりにするといつしか僕も波にもまれながら海に浮いていたのである。
撮影は読み勝負
波とサーファーが一体となってカメラの前でパフォーマンスを見せてくれる。こんなに素晴しいことがあるだろうか。しかし的確なカメラポジションへ泳ぎながら自分を持って行く難しさは体力の問題を越えた読みの勝負なのだ。
波とサーファーが目前で一体化するようなポジションでカメラを構えていなくてはならないのだから、右に左に泳ぎまくるのである。高さが5~6mもある波にたたかれると、2分は呼吸ができないのだから必死だ。今このように原稿を書いていられるのも運が良かったと言えるのかもしれない。
さ と う ひ で あ き
1943年、新潟県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、フリーのカメラマンとなる。
60年代はニューヨークに暮らし、その後、70年代、80年代にかけてはサーフィンを被写体の中心にすえる。
その時に培った自然観をベースに、北極、アラスカ、アフリカ、チベット、南洋諸島など、世界中の辺境を旅し、自然と人間、文化を独特の視野で撮り続け、数多くの作品を発表している。
最近は日本にも目を向け、日本人の心の中に淀んでいる思いのようなものを表現することに精力を注いでいる。主著は「北極 Hokkyoku」「地球極限の町」「口笛と辺境」など多数。「彼は海へ向かう」「西蔵回廊」「伝説のハワイ」など共著も数多い。
日本写真家協会会員