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カメラは地球を巡る
蜃気楼とカヤック
vol.3 ユーコン漂流 佐藤秀明
様々に変化する表情も魅力のひとつ
好天に恵まれての川下り
しばし安息のひと時

ユーコン川はカナダのブリティッシュコロンビアとユーコン準州が境を接するあたりから、アラスカのベーリング海に注ぐ全長3185kmの大河である。

自然に身を委ねての川下り

1983年、カナダのマッケンジー川をカヤックで下った野田知佑さんは、2年後、ユーコン川完全漕破を目差して日本を出発した。この気の遠くなるほど長い川下りには、のんびりとしたカヌー旅を旨とする野田さんには二度の夏が必要だった。その二度目の旅に僕は途中から合流することになったのだ。

中流から下流にかけてのユーコン川はまるで海のように広大だ。川幅も最大5kmにもなる。対岸が蜃気楼で現われては消え、消えては現われる。そんな大河が幅の狭い場所にさしかかると時速10km/h以上のスピードで流れる。

美しい支流に出合うと遡ってそのまま数日間を過す。テントの前を鮭が遡上して行く。雲が流れ、鳥がさえずり、我々は自然の一部と化して風に吹かれながら疲れを癒す。

命の危険も今では笑い話に

毎日がこのように素晴しいものばかりではない。前方から雷雲が近付いて来る時の恐怖はなんと言ったらいいだろうか。黒く塗り変った空に光る稲妻に首をすくめながら慌てて上陸地を探し、上陸したら素早くテントを設営して200mほど離れた場所に三脚を誘雷用として立てるのである。

幸いにも雷に打たれることはなかったが、雷以上に怖いものは熊だった。アラスカの男たちはこのような旅に熊の接近を知らせる犬を連れて行くことが多い。野田さんの愛犬ガクは、一度熊を追って行ったまま数日間帰らないことがあった。

道に迷ったのだろう。野田さんは護身用のライフルを空へ向けて3時間おきに発射し、ガクに我々の所在を知らせようとした。それが効いたのか、4日後、「スマン、スマン」とでも言うように、ガクはうなだれながら帰って来た。「バッカモーン!」。野田さんの一括が荒野に轟いた。

この旅の後、折に触れユーコン川でカヌー下りを楽しんで来たが、ここ数年はユーコンが少しづつ遠ざかっている。年をとったのだろうか。

さ と う  ひ で あ き

1943年、新潟県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、フリーのカメラマンとなる。

60年代はニューヨークに暮らし、その後、70年代、80年代にかけてはサーフィンを被写体の中心にすえる。

その時に培った自然観をベースに、北極、アラスカ、アフリカ、チベット、南洋諸島など、世界中の辺境を旅し、自然と人間、文化を独特の視野で撮り続け、数多くの作品を発表している。

最近は日本にも目を向け、日本人の心の中に淀んでいる思いのようなものを表現することに精力を注いでいる。主著は「北極 Hokkyoku」「地球極限の町」「口笛と辺境」など多数。「彼は海へ向かう」「西蔵回廊」「伝説のハワイ」など共著も数多い。

日本写真家協会会員

夜空にうごめくオーロラ
川の傍らにはネイティブたちの墓標も
『カメラは地球を巡る』
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