マルケサス諸島は、タヒチ島のパペーテから北西に1200km、タヒチ島を中心とするフランス領ポリネシアの中でも最果ての島々だ。
それゆえ、ポリネシアの文化が最も色濃く残されていることでも有名で、人々は今なおパンの実を食べ(もちろんフレンチブレッドも食べるのだが)、ゆったりとうらやましくなるような暮らしをしている。
アートに描かれる島々
このマルケサス諸島について、日本ではあまり知られていないし、資料を見つけることも難しい。そういった知識よりも、むしろ小説や絵のなかにこそ、本当のマルケサスを見ることができると言えるだろう。
たとえば、ハーマン・メルヴィルの小説「タイピー」などは、100年ほど前のマルケサスの様子を最もよく表している。
捕鯨船の船員だったメルヴィルは、船がヌクヒバ島のタイオハエ村に入った時、仲間と共に脱走を企てた。しかし、数日後かに食人種だったタイピー族に捕まってしまう。そこから脱出する際の話しを物語に描いたのが彼の処女作「タイピー」だ。
タイピーを読むと、当時のマルケサスは蚊も蝿もいない天国のような島だったらしい。
俗化したタヒチを捨て、ヒバオア島アツオナ村に移住。そこで生涯を終えたゴーギャンの行動からも、その楽園ぶりがうかがえる。
楽園よ永遠なれ
その後のマルケサスはというと、欧米人たちが持ち込む病気などで、人口が1500人ほどに激減してしまう。それも現在では、6000人まで回復しているとか。
以前、フランス政府は、フランス領ポリネシアの中心地をタヒチのパペーテかマルケサスのヌクヒバを考えていた。それがパペーテに決まると、我々とマルケサス諸島は急激に遠のいてしまうことになる。
さ と う ひ で あ き
1943年、新潟県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、フリーのカメラマンとなる。
60年代はニューヨークに暮らし、その後、70年代、80年代にかけてはサーフィンを被写体の中心にすえる。
その時に培った自然観をベースに、北極、アラスカ、アフリカ、チベット、南洋諸島など、世界中の辺境を旅し、自然と人間、文化を独特の視野で撮り続け、数多くの作品を発表している。
最近は日本にも目を向け、日本人の心の中に淀んでいる思いのようなものを表現することに精力を注いでいる。主著は「北極 Hokkyoku」「地球極限の町」「口笛と辺境」など多数。「彼は海へ向かう」「西蔵回廊」「伝説のハワイ」など共著も数多い。
日本写真家協会会員