鹿野 貴司 Takashi Shikano

鹿野 貴司
Profile
1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。
主な写真展:「Tokyo Sunny Day」2003年・コニカミノルタプラザ、「甦る五重塔 身延山久遠寺」2009-10年・キヤノンギャラリー銀座・日本外国特派員協会など、「Beijingscape」2010年・エプサイトギャラリー、「感應の霊峰 七面山」2012年・コニカミノルタプラザ、「山梨県早川町 日本一小さな町の写真館」2016年・新宿ニコンサロン、「しましま」2018年・GLOCAL CAFE IKEBUKURO、「明日COLOR」2020年・ルーニィ247ファインアーツ

https://note.com/shikanotakashi

HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED
Limited DC WR

「明日使うレンズを選ぶ」。レンズ交換式カメラを愛用している人にとって、これはささやかにして最大の楽しみではないだろうか。撮影現場やそこで起こることをあれこれ想像し、このレンズならこれが撮れるな、あれを撮るならそのレンズが必要か……などと考えるのが楽しいのだ。

とりわけ上質な単焦点レンズに出会うと、そのレンズを使って何を撮るか、何が撮れるかに思いを巡らせる。常日頃持ち歩くのもいいが、できればそれを携えてしばらく旅に出たい。HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRもまさにそんなレンズだ。フルサイズ対応の超広角レンズだが、APS-CフォーマットのK-3 Mark IIIに装着するとフルサイズ換算で32mm相当になる。これが街を歩きながらのスナップにちょうどいい。構図をきっちり整えることもできるし、出会い頭の一瞬を切り取ることもできる。己の引き出しが試される部分もあるが、それゆえに心も躍り、行き先を思案するだけで時間が過ぎていった。結果向かったのは伊勢・志摩・鳥羽。冬なので少しでも温暖な場所を求めた結果だが、それよりも決め手だったのは、これまで訪れるたびに印象的な光景と出会えたことだった。

スタートは風光明媚な港町で“絵描きの町”とも称される志摩の大王崎。ここは数年前に仕事で訪れたが、坂と漁港が好きな僕は興奮が抑えられなかった。2度目になるとさすがに落ち着きを保ちつつも、前回は駆け足で見逃していた路地や鰹節小屋などに目玉が揺さぶられる。ほぼ初陣となるK-3 Mark IIIとHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRのコンビネーションも、長年の相棒のようにすぐさま手に馴染んだ。アルミ削り出しの外装は見た目の美しさだけでなく、そういうメリットもあると思う。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F2.4 シャッタースピード:1/2000 ISO:200 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F8 シャッタースピード:1/320 ISO:100 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

伊勢市内に移動して伊勢うどんを啜った後は、昔ながらの商家が立ち並ぶ河崎へ。夕暮れ時を散策したのち、昭和元年創業のレトロな宿で一泊。伊勢の町並みといえば観光地として近年整備されたおはらい町(おかげ横丁)が有名だが、江戸時代に問屋街として栄えた河崎は当時の商家や蔵がそのまま残る。などと偉そうに書いているが、実は宿を探していて初めて存在を知った。今も人々が日常生活を営んでおり、内宮周辺の大渋滞をよそに、静かでゆったりとした時間が流れていた。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F5.6 シャッタースピード:1/200 ISO:100 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F5.6 シャッタースピード:1/5000 ISO:200 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

翌日は鳥羽港から渡船に乗り、三島由紀夫の『潮騒』に描かれた神島へ。ここも初めて上陸したが、港を背にすぐ急坂が始まり、家々が階段状に立ち並ぶ。路地はまるで迷路。ズームレンズなら焦点距離に迷いがちだが、フルサイズ換算で32mmというのは慣れ親しんだ画角。自然と足が適切な位置に動く。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F7.1 シャッタースピード:1/640 ISO:100 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

夕刻には後ろ髪を引かれつつ神島を後に。再び渡船に乗って次の離島、答志島へ向かった。ここは15年ほど前、日帰りで訪れたことがある。そのとき島のおばあさんに「ここは魚がうまいし、朝の風景がいいから泊まりに来るといいよ」といわれたのが頭に残っており、一泊して翌日じっくり島を巡ることに。宿では漁師でもある主人が獲ってきた魚が、驚くほどの鮮度と量で供された。そして翌日は素晴らしい朝焼けとともに、年に2度ほどという新造漁船のお披露目にも居合わせることができた。旅のヒントをくれた、あの日のおばあさんに感謝。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F4 シャッタースピード:1/100 ISO:320 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F4 シャッタースピード:1/4000 ISO:800 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F4.5 シャッタースピード:1/1000 ISO:200 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

帰京して写真を見返すと、冬の澄んだ空気が路地や海に太陽光をたっぷりと導いている。そこにはK-3 Mark IIIの濃厚な色再現と、それを引き出すHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRの“光学力”が活きている。発表直後にK-1 Mark IIで使ったときはキレ味と繊細さを兼ね備えた、とても贅沢な超広角レンズという印象だった。望遠レンズなら実力はボケ味に現れるが、広角レンズでは線の描写にあると思う。いかに細くてまっすぐか、そして画面の中央でも周辺でも均一かどうか。その点においてHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRは実にすばらしい。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F2.4 シャッタースピード:1/5000 ISO:200 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F5.6 シャッタースピード:1/400 ISO:200 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

実は以前から同じ焦点距離のHD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limitedを愛用している。薄くて軽いうえ、キレ味がとても鋭い。それに比べるとHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRはより繊細で、カメラの性能をさらに引き出すような印象を受けた。何より絞りが約1段明るいことは大きい。近接時にボケが得られるとか、暗い場面でISO感度を抑えられるという直接的なメリットもあるが、何よりファインダーをのぞいていて気持ちがいいのだ。空や海の青さ、光と影のコントラスト、カメラを向けた先にある笑顔がファインダー越しにはっきりとわかった。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F4 シャッタースピード:1/100 ISO:640 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:鮮やか

このレンズと一緒に、次はどこへ旅に出ようか。そんなことを考えて再び時間が過ぎてしまいそうだ。