岡嶋和幸 Kazuyuki Okajima

岡嶋和幸
Profile
1967年福岡市生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。作品発表のほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集「ディングル」「風と土」のほか著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」「潮彩」「学校へ行こう! ミャンマー・インレー湖の子どもたち」「九十九里」「風と土」「海のほとり」などがある。

HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED
Limited DC WR

カメラを手にふらっと出かけたり、旅行先に選ぶのは海辺がほとんど。海からそれほど遠くない場所で生まれ育ったからだろう。海辺の景色は地域によって特色があり、そのありさまを観察するのが好きだ。

今回、K-1 Mark IIとHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRを手に出かけたのは福岡の博多湾。泳いだり、魚釣りをするなど、子どものころによく遊んだお気に入りの海辺を巡る。埋め立てや再開発などでその多くは様変わりしてしまったが、昔の面影を残す場所もあり、楽しかった夏休みの思い出が蘇ってくる。

作品制作では生みの苦しみを味わいながら撮り進めていく。単焦点レンズ1本で表現を模索するのが好きで、ズームレンズを含め複数のレンズを使い分けることはほとんどない。作品のテーマやコンセプトに合ったレンズを選ぶが、40~60mm、準広角から標準域が最も多い。LimitedレンズだとHD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limitedがぴったりだ。好きな画角というより、被写体にアプローチしやすい距離感が得られることが大きい。被写体との関係が鑑賞者に伝わりやすいこともある。でもそれだと超広角のHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRは選ばないことになるが、自分の視野を意識した表現を行ううえで、実は標準レンズとの使い分けが有効な存在なのである。

海辺を歩きながら目に留まったものにレンズを向ける。光や色に反応することが多いが、肉眼では視線の先にあるものははっきり、周辺にあるものはぼやけて見える。前者は中心視野、後者は周辺視野と呼ぶのだそうだ。周辺視野には意識が向いていないため、撮影するときは標準レンズ、さらには望遠レンズと、視線を向けた中心視野だけを切り取る場合がほとんど。でもあまり画角を狭めすぎると情報不足で伝わりにくい表現になりやすい。撮影者はその場の状況を記憶しているが、鑑賞者が目にできるのは四角く切り取られた部分だけだからだ。ぼやけているが、何となく見えている周りの様子が必要なこともある。周辺視野を取り入れた表現では、HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRの出番となる。

肉眼に近い距離感で捉えられる標準レンズと同じアプローチだと、HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRはただ広く写るだけで散漫な感じになりやすい。興味を引く被写体を見つけたら、その様子をうかがうようにすーっと近寄ってみる。被写界深度が深めになる超広角も、被写体との距離を縮めれば浅めになる。レンズ前7cmまでの近接撮影ができる点も有利。じっとしてくれれば、昆虫や動物なども臨場感のあるアプローチが可能だ。歪んだり流れたりなど像が画面周辺に引っ張られるような感じはなく、肉眼での印象に近い自然な広がり。絞りを開ければ、周辺視野のぼやけた感じがさらに出しやすい。開放時の柔らかい描写、滑らかな周辺減光の感じは味わいがあり好印象。夏の日射しのコントラストなど、光と陰をバランスよく捉えたクリアな仕上がりだ。

HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRは、他のFA Limitedレンズとは異なり絞りリングがない。そのぶん鏡筒はすっきりし、フォルムの美しさが際立つ。プログラムオートを多用するため、絞りリングがなくても特に不自由はない。被写界深度は近景で浅め、遠景は深めを好むが、特に意識しなくても撮影距離の違いでそのようになりやすい。プログラムラインの深度優先の設定を使い分けるとさらに効果的で、絞りやシャッター速度はハイパープログラムで必要に応じて変更する。

周辺視野のぼやけた部分が状況説明として必要であれば、パンフォーカスにしてしっかり見せる。絞ると画面全域で均質な描写になるHD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRは解像感も十分。輪郭は線が細く自然で、プリント表現が主な私にとって理想的な像を描く。ぼけを生かすなど肉眼での印象に近い表現では、被写体と背景をなだらかに分離。その場の空気感、被写体の立体感、奥行きなどにつながり、鑑賞者の視線誘導にも効果的に働く。被写界深度は撮影距離で変化するので、絞りも固定せず柔軟に変えてみる。プログラムオートだと状況に応じていろいろな絞り値が選ばれるため、それによる描写の違いを楽しむのも面白い。

標準レンズのときとは違ったフットワークだが、慣れてくると自然と足が動くようになる。超広角レンズをここまで多用する機会はこれまであまりなかったのだが、撮り続けていくうちに気持ちが高まり、普段とは違った表現を満喫できた。HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRが好奇心を高めてくれたのだ。PENTAXの単焦点レンズの中では最も画角が広く、しかもLimitedレンズということで、最も個性的な表現が味わえるレンズと言えるだろう。