大門 美奈 Mina Daimon

大門 美奈
Profile
RICOH RING CUBEの公募展をきっかけに写真家となる。
作家活動のほかカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。
個展・グループ展多数開催。代表作に「本日の箱庭 」・「浜」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)などがある。
International Photography Awards2017および2019・2020にて入選。

www.minadaimon.com

HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED
Limited DC WR

レンズが運ぶ、シャッターチャンスと鮭と酒。


再びの村上である。
このレンズの撮影地にふさわしい地はどこだろうかと悩んでいたところ、昨年12月に村上で滞在した宿屋のオーナーのこんな投稿が飛び込んできた。「鮭の季節ですよ!」

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F2.4 シャッタースピード:1/50 露出補正:-0.7EV ISO:2000 WB:オート カスタムイメージ:里び(SATOBI)

そうだ、村上があったではないか。昨年もK-3 Mark IIIの撮影でお世話になった地である。当時は smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited と smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited の2本のレンズを持って撮影に臨んだが、今回発売の HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR では どんな画が描き出せるのだろうか。俄然楽しみになってきて「行きます」と即答した。鮭も楽しみだ。

さて HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR である。
smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited を見慣れている私にとっては、レンズだけ見ると少し大きいように感じられたが、K-3 Mark IIIに装着すると非常にバランスがいい。焦点距離はAPS-Cセンサーで32mm。私の好きな画角である。レンズキャップをつけ外しする際のクセになる感触と、高い質感を追求したアルミ削り出しの外観は、かばんに押し込んでおくのが惜しく感じられるほど。

新潟から列車を乗り継ぎ村上に到着。駅を出たとたん、湿気を帯びた冷気が身体を包み込む。ここの空気が決して突き刺さるような寒さではないのはやはりこの湿気のためなのだろう。正直なところ金属製のレンズは冬場はあまり触れたくないものだが、なぜかこの HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WRはずっと触っていたくなる、決して無機質ではない工芸品のような豊かさを感じさせるレンズだ。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F3.2 シャッタースピード:1/50 露出補正:-0.7EV ISO:1250 WB:太陽光 カスタムイメージ:里び(SATOBI)

村上の町屋をめぐりつつ撮影をしていると、もうすぐ築200年になるという酒屋のご主人が、「猿」と呼ばれる戸締り用の鍵を見せてくれた。文政時代から伝わるもので、以前は米屋を営んでいたとのこと。すかさずレンズを近くに寄せて「米屋」と刻まれた猿を撮影させてもらう。HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED Limited DC WR はレンズ前 約7cmまで近寄ることができるため、檜に刻まれた文字とご主人のふっくらとした手は際立たせつつも、背景はその場の和やかな雰囲気を表すかのようにやわらかで自然なボケを描き出してくれる。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F3.5 シャッタースピード:1/50 露出補正:-0.7EV ISO:250 WB:マルチパターンオートWB カスタムイメージ:里び(SATOBI)

酒屋を出ると、午後の光が差し込んできた。歩いて歩いて、気になったものがあればファインダーを覗いて撮る、ただこの繰り返しであるのだが、これが本当に楽しい。撮影に集中できる K-3 Mark III の明るいファインダーと好きなレンズであるならなおさらである。思い通りにコントロールできるマニュアルフォーカスもスムーズだ。

今回の撮影では「 里び(SATOBI) 」という新しく発表されたカスタムイメージを使用した。
一見するとあっさりした色味でありながらもしっかりと出汁の風味が感じられるような、 味わい深い色合いが初冬の村上の風景とよく馴染む。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F5.6 シャッタースピード:1/1250 露出補正:-1.0EV ISO:200 WB:太陽光 カスタムイメージ:里び(SATOBI)

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F3.2 シャッタースピード:1/400 露出補正:-0.7EV ISO:200 WB:日陰 カスタムイメージ:里び(SATOBI)

夕暮れが近づいてきた頃、三面川へと向かう。村上名産である鮭の漁が行われる川だ。
川沿いをしばらく歩いていると畑の周辺に何やら高い柵のようなものが見えてきた。ずらり並んだ干し大根である。この大根も塩引き鮭と同じようにしっとりとした冬の風を浴びて美味しくなるのだろうな、と夢中になって撮影していると、パラパラと雨が降り出してきた。今日の撮影はここまでだろうか、と半ばあきらめつつ空を仰ぐと、うっすらと虹が見えた。カメラを構えるのも忘れて三面川の両岸にかかる虹に見とれていると、太陽が低くなるにつれて次第にその色は濃くなってゆき、くっきりとした2重の虹へと変化した。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F5.6 シャッタースピード:1/1000 露出補正:-1.0EV ISO:200 WB:太陽光 カスタムイメージ:里び(SATOBI)

すっかり嬉しくなって宿へと向かう。去年と変わらぬ笑顔で迎えてくれるオーナーに、向かいのバーのマスター。
美味しい鮭とお酒にあたたかな村上の人々。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F2.4 シャッタースピード:1/50 露出補正:-1.3EV ISO:2500 WB:オート カスタムイメージ:里び(SATOBI)

きっと来年もまたこの地へ来るのだろう。帰りの新幹線の時間調整のために入った喫茶店でやけにおいしいカプチーノを飲んで外へ出ると、力強くYesと言わんばかりに盛大な光が川面を照らしていた。気のせいだろうか、どうやらこのレンズは私に撮影を通じた特別な体験とシャッターチャンスを運んできてくれるらしい。

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F2.8 シャッタースピード:1/60 露出補正:-1.3EV ISO:200 WB:オート カスタムイメージ:里び(SATOBI)

PENTAX K-3 Mark III+HD PENTAX-D FA 21mmF2.4 Limited DC WR
絞り:F5.0 シャッタースピード:1/800 露出補正:-1.3EV ISO:200 WB:日陰 カスタムイメージ:里び(SATOBI)