瀬尾 拓慶 Takumichi Seo

瀬尾 拓慶
Profile
1990年4月24日 神奈川県川崎市生まれ 多摩美術大学環境デザイン学科卒 株式会社エス・イー・オー所属。幼少期より、音楽、自然、様々なデザイン現場に囲まれ、物事に対する特異な感性と視点を持ち育つ。自ら撮影した写真を用い、ポスターやCDジャケット、様々な広告媒体のデザイン、バックグラウンドミュージックの作曲等も手掛ける。 写真に合わせた作曲活動、個展ではピアノの即興演奏なども行う。

Takumichi Seo / 瀬尾 拓慶 公式ホームページ
Takumichi Seo × PENTAX「光の記憶」

HD PENTAX-D FA 21mmF2.4ED
Limited DC WR

Prologue

Limitedレンズには特別な想い入れがある。以前に少し姿がお披露目された21mmの開発は進んでいるのか?そんなことを気にして1年と数カ月後、ようやくレンズを受け取り、初めて実際の姿を見た。ぱっと見る限りでは大きい31mm、そんな印象を受けた。

まず部屋の中で色々と試してみてわかったことがある。
このレンズは周辺の歪みが全く無く、F値によって描き出す画の性質が大きく変わってくることだ。

開放で寄るとソフトレンズのような風合いになり、絞っていくとどんどんシャープでパキっとしたイメージになる。

たしかに前もって聞いていた通りだ。
絞った際の写りはHD31mmに近い印象を受けた。
このレンズは、何を撮るにしても力を発揮してくれるであろう。
画角は広いしパースも強いが、寄れることもあり、ポートレート、物撮り、風景、様々なジャンルで活躍しそうだ。
早く試してみたい。
そう心を動かしてくれるレンズだ。

さて、ついに撮影の日が来た。
なかなか外に出ることができないこともあり、久々の撮影に期待が満ちる。
バッテリーとSDカードの確認もできている。
これで、あの絶望感を味わうことは無い。
朝の2時にそっと家を出て、久方ぶりの現場へと向かった。
天気予報も条件的には最高だ。
前日の気象条件から計算すると、今日は期待できる。
そんなことを考えながら車を走らせた。

現場へ着き、準備を整えて森に入る。
初めて訪れる場所なだけあり、緊張と興奮が心を支配していた。
森へ入ると、そこには光芒に満たされた幻想的な光景が広がっていた。
降り注ぐ光の束が私を迎え入れてくれ、木道に落ちる木漏れ日が踊るように誘ってくれた。
この、朝の静謐で湿度を帯びる空気をずっと求めていた。
深く息を吸い込み、手元を操作してファインダーを覗き込む。
すでに完成された作品がそこにはあった。

美しい。
その一言に尽きるほどの画だ。
あの、広角で撮る際に我慢していた周辺の歪みや収差が全く感じられないのだ。
広く、思いのままに美しく撮ることができる。
そう感じ取ると、ひたすらシャッターを切り続けた。

これまで特に多用してきた31mmが最高のレンズであると私は思っている。
この21mmは、そんな31mmと双璧を成すレンズだという確信を得た。
近づいても引いても、何をしても美しい。

このレンズのポテンシャルは計り知れない。
さて、光芒に魅了されて夢中になっていたが、それ以上を時間が許してくれないことに気がつく。
目的地はこの先なのだ。
光注ぐ木道の森を抜けると、そこに朝靄を纏う池が現れた。
水面を靄が漂い、流れている。
もう少し早い方が良かっただろうかとも思ったが、結果的に太陽が写り込む幻想的な池の作品を撮ることができた。

現地で他の撮影者と会話をすると、これでも靄が少ない方だということだが、私にとって満足のいく光景だ。
自然の織り成す情景に単純なベストはない、すべてに一期一会の価値があると思っている。
光を感じながら池周辺を歩き回る。

薮の方へ進み、細かい世界を切り取ってみることにする。
小さな花々をF2.4で撮影してみた。

しっかりとピンは来ているが、溶けるようにソフトで尚且つ自然で印象的な描写の作品を描き出すことができた。
実際現場で花等を撮影してみると、ソフトレンズとも、ソフトフィルターともまた違う独特の味わいがあることに気がつく。

そして絞り込んでアザミを撮影すると、今度ははっきりとした描写になった。
これは素晴らしい。
私の中で常に持ち歩くレンズの座に君臨する31mmの立場が揺らぎ始めてしまった。
21mmは31mmと比較して少し重い点が気になるが、そこを除けば全くマイナス点が無い。
さて、薮から戻るとすでに水面の靄は消えていた。

刻々と変わる光景と、灼熱の日光を感じつつ次の場所へと移動する。
このレンズで広い光景を切り取るためだ。
ということでやってきたのは天空の湖と称される某所。
ここは高台からも撮影できるため、このレンズには御誂え向きだ。
空を広く、そして足元を入れての二つのパターンを撮影する。

空の透き通る青さが出ており、雲の表情も豊かに表現されている。
また、足元の石の素材感も損なうことがなく、シャープで繊細な描写を得ることができている。
さすが広角系レンズ、広い場所で撮影するとその真価を発揮してくれる。
そして先述の通り、全く歪みもない。
水際に降りて、水面ギリギリでも撮影をしてみる。

もうわかっていたことだが、さすがという表現力だ。
最後に林道へと移動した。
林道は私にとって最も慣れ親しんだ被写体だ。
林道はその性質上真上に木がないため、光がよく落ちる。
なので、晴れの日は特に光量調整が大変なのだ。

だが、カメラの本来持つポテンシャルをこのレンズは引き出してくれるため、あまり苦もなく撮影することができた。
林道に落ちる光や、見上げるとキラキラと輝いている枝葉、そして道の脇に咲く一輪のレンゲショウマ。

どれを撮っても作品になってしまう。
確かに撮影する人間のスキルも作品には重要だが、良い機材を使うことによって誰でもいつもより良い写真が撮れるというのもまた事実だ。
“良い機材”というと語弊が生じるか。
いつもより更に撮っていて心から楽しいと思える機材、だからなのだろう。