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K-3 Mark III Impressions

赤城 耕一

「一眼レフ」を古いもの、時代遅れのものとする風潮が一部にある昨今だが、新製品のPENTAX K-3 Mark IIIを手にしてみると、そんなことはまったく感じさせないどころか、既存の価値観を大きく覆すほど、新しい一眼レフカメラとして誕生してきたことに驚いてしまう。
これまではセンサーサイズがAPS-Cサイズの一眼レフカメラなら、そのセンサーの大きさに合わせてファインダー倍率も小さくなり、これに従い視野も小さくなるということが普通だったし、私たちもそれが当然なのだろうと認識していた。現代の一眼レフカメラはオートフォーカス搭載は当然だし、実用上は問題はないと考えられていたこともあるが、あえて不満を口にすることはなかったのである。

HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F8.0、1/1600秒、-1.0EV、ISO400

ところがK-3 Mark IIIは違った。ファインダーを覗いた瞬間にこちらが一瞬たじろいでしまうほど視野が大きいのである。ファインダーの光学設計を見直せば、大きな視野が確保できるのだということをあらためて知ったのだ。
K-3 IIやKPで約0.95倍だったファインダー倍率が、K-3 Mark IIIでは約1.05倍に高められた。そのためには使用するペンタプリズムを素材から変更し、大幅な光学系の再設計が必要だったというが、正直、普段使っているK-1並みと言っても大袈裟ではないくらいなのである。従来より高い屈折率を持つ硝材を使用したこともこれを可能としたが、製造に伴う苦労も相当のものときいている。
K-3 Mark IIIのファインダーを覗いただけで、自分の目玉は悦びに踊った。つまり、これまでのAPS-Cセンサーを搭載した一眼レフは、言葉は悪いが、これまでの概念を打ち破ることができず進化を停止していたからである。K-3 Mark IIIは一眼レフの命とされるファインダーが大きく進化している。大袈裟ではなく自分のところに本当の一眼レフが還ってきたような気持ちになったくらいである。

HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F8.0、1/60秒、-1.0EV、ISO400

実際にペンタックスユーザーには旧レンズの愛用者は少なくない。つまりファインダー視野が大きいことはMFでのフォーカシングのしやすさにもつながる。さらにファインダーのピントのヤマが掴みやすく、遠くにある被写体のピントの見極めも従来よりも優れる。最新のペンタックスAFレンズを使うユーザーばかりではなく、旧レンズユーザーにも多大なる恩恵をもたらしている。実際に本機を手にした人はこの当たり前の事実に驚くことになるだろう。
ペンタックス一眼レフのマウントはAFの進化によって、時代ごとに電子化されてきた。しかし基本的なKマウント規格は発生時から一切変わらず、1970年代から用意されているMF交換レンズ、さらにそれより前からのねじ込み式のM42マウントレンズも純正アダプターで装着可能としており、K-3 Mark IIIでも、もちろん同様に問題なく使用可能である。
しかもボディ内にAF駆動用のモーターを内蔵しているため、これまで発売されたどんなに古いペンタックスAFレンズでもAFで使用可能である。つまり、AFの駆動方式を選ばず、その力を存分に発揮させることができるのである。このため私は勝手にペンタックスの一眼レフのマウントを時代によらず「不変のKマウント」と呼んでいるが、他にこのようなフレキシビリティな新旧互換性を持ったシステムカメラは存在しない。そういう意味ではペンタックス一眼レフは旧来のユーザーを大切にしていると感じるのである。
一眼レフのこだわりというのは光に対するこだわりとも取れる。つまり撮影者が光学ファインダーで見たナマの光をセンサーに閉じ込める作業に楽しみを見出さねばならない。とにかく失敗のないように、効率を重視する撮影方法とは少し異なることになるかもしれないが、撮影者は出来上がる写真を想像しながら被写体にアプローチしてゆく必要がある。一眼レフを使う写真家はファインダーから出来上がる写真の組み立てを考えることのできる予知能力が必要になる。これをひと手間かかると思うか、楽しみと考えるかで一眼レフに対する価値観が大きく変わるわけだ。

HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F8.0、1/1250秒、-1.3EV、ISO400

ファインダーが大きくなっても、カメラが大型化してしまっては意味はなくなる。K-3 Mark IIIはこのあたりにも十分な配慮がみられ、全体に凝縮感を感じる締りのあるフォルムになっていることも評価したい。ボディ頭頂部の三角屋根のデザインはペンタプリズムの象徴なのである。
握りやすいグリップはホールディングが安定する。K-3 Mark IIIには強力なSR(手ぶれ補正機構)が内蔵されてはいるが、撮影者がいいかげんに撮影してよいというものでもない。
望遠系レンズ使用時でもさらなる安定性を提供することで撮影者に安心感をもたらし、低照度下での撮影時に手ぶれの不安から解放され、鮮鋭な写真が制作できるであろうことを期待させる。ボディのバランスや握りやすさをきわめたデザインの完成度の高さ、その使用感触は一眼レフを長く作り続けるペンタックスならではのものである。実際に使用してみると、本当にこの安心感は実感することができるのである。
APS-Cフォーマットのデジタル一眼レフの多くは廉価機であるという世間の認識を覆し、K-3 Mark IIIはきわめて高級感のある仕上がりとなっている。小型でも35ミリフルサイズセンサーを搭載したK-1並みの存在感と言っても大げさではないくらいなのだ。そのシャッター音、スイッチ、ダイヤルなどの動作感触、撮影とは関係ないところにまで気配りされているのである。これが道具としての資質を高めているのである。
あたりまえである。K-3 Mark IIIは一眼レフの認識を変えたペンタックスのAPS-Cフラッグシップ機と断言できるからである。

Koichi Akagi
赤城 耕一

Koichi Akagi

赤城 耕一

東京生まれ。エディトリアルではドキュメンタリー、ルポルタージュ。PR誌、コマーシャルでは人物撮影。カメラ・写真雑誌、WEBマガジン、撮影のHOW TOからメカニズムの論評、新製品カメラ、レンズのレビュー。写真集評、写真展評も行う。ワークショップでは撮影指導も行っている。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「銀塩カメラを使いなさい!」(平凡社)「ズームレンズは捨てなさい!」(玄光社)、「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)、最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)。

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