カナダ、サウスオンタリオの森。このしみじみとしておだやかな風景はいつでもとてもフォトジェニックで何処にいても忘れることのできない場所だ。
森林と湖と川からなるこの広大な土地は、カナダ人にとっても心そのものだ。
自然が生み出す必然
欧州から来た人々が北アメリカを開拓しはじめたころ、この森の主役であるカエデとマツは大陸の端から端までうっそうと生い茂っていた。
その暗い森の中で光るシラカンバの存在も忘れてはならない。当時、この未開地の唯一の住人であったFirst Nations(ネイティブ・カナディアン)たちがカヌーを作るのに利用したのがこの木の樹皮だったのだ。
オンタリオの森と湖を見ていると、カヌーがなぜこの地で生まれたのかわかるような気がする。カヌーを生み出す必然性がオンタリオの自然にはあったのだ。
First Nationsたちはまた、カエデの木からシロップも採取していた。メープルシロップがそうである。
時間を忘れ過ごせるところ
現在、湖や川をカヌーで行く人々のほとんどは豊かな自然の中でのアウトドアライフを楽しむことが主な目的となっている。しかし、深くて広大な原始の森と湖を旅することで、動物たちや見たことのない風景に出会えることだってある。
そういう場所へカヌー旅をした時、カヌーの上でパドルを握っている時も、小さな島に上陸して身を休めているときも、一度も退屈することなくカメラのファインダーを覗くことができた。
時間というものを気にしたこともなかった。
川旅では流れが時を刻んでいるように思えることがある。しかし、ここでは時間をまったく気にかけずに旅をし、生活できるのである。オンタリオは僕にとっても心の森だ。
さ と う ひ で あ き
1943年、新潟県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、フリーのカメラマンとなる。
60年代はニューヨークに暮らし、その後、70年代、80年代にかけてはサーフィンを被写体の中心にすえる。
その時に培った自然観をベースに、北極、アラスカ、アフリカ、チベット、南洋諸島など、世界中の辺境を旅し、自然と人間、文化を独特の視野で撮り続け、数多くの作品を発表している。
最近は日本にも目を向け、日本人の心の中に淀んでいる思いのようなものを表現することに精力を注いでいる。主著は「北極 Hokkyoku」「地球極限の町」「口笛と辺境」など多数。「彼は海へ向かう」「西蔵回廊」「伝説のハワイ」など共著も数多い。
日本写真家協会会員