Challengers 開発の現場から

PENTAXの一眼レフカメラに搭載されているボディ内手ぶれ補正機構「SRII」(シェイクリダクション)。ボディ内にSRユニットを搭載し、自在に動かすことで、どのレンズを装着しても手ぶれを軽減することができる。常に新しい可能性を探り続けるペンタックスの技術者にとってSRユニットはまさに宝の箱であり、部署を越えた開発者のアイデアで「自動水平補正」、「構図微調整」、「ローパスセレクター」、「アストロトレーサー」など、ユニークな機能を次々と生み出してきた。
そして、PENTAX K-3IIで、同じくSRユニットを応用した「リアル・レゾリューション・システム」(以下RRS)が新しく搭載された。イメージセンサーを1画素ピッチずつ動かしながら4枚を連続撮影し、1画素ごとにRGB各色の情報を得て合成処理を行うことで、より忠実な色再現性と偽色のない超高精細画像を生成する技術である。
RRSの導入にあたり、ペンタックスは、RAW画像の保存、外部ソフトを使わないカメラ内RAW展開にも対応した。後に、被写体の動いた領域を検知してその影響を低減する動体補正モードも搭載し、ユーザー自らがオン/オフを選べるようにした。ユーザーの様々な使い勝手を考え、他とは一線を画すシステムとして進化を続けている。

難題を解決に導いた、逆転の発想力。

イメージセンサーを1画素ピッチ単位で動かすという極めて精密な制御を考えれば、しっかりとカメラが固定されることが必要で、当然、RRSは三脚使用を推奨している。しかし、フィールドカメラを標榜するペンタックスにとって、“手持ちでのリアルレゾリューション撮影”が是非とも実現したい新たな課題となった。
手持ちでのリアルレゾリューション撮影の検討を重ねれば重ねるほど、手持ちと精密な制御は相容れないものであるという矛盾があった。この難題を解決したのは、コペルニクス的転回ともいえるひらめき、逆転の発想だった。
「手持ちの状態を様々な角度から検証し、いかに手持ちの揺らぎを抑えるかについて徹底的に考えているうちに、むしろ手持ちの揺らぎを利用できないかと思ったのです」 手持ちでの揺れを「ズレる」と考えるのではなく、「ズラした」と考えた。イメージセンサーを意図的に動かすRRSの仕組みを考えれば、カメラ内の手ぶれ補正機能で動かすのも、撮影時の人間の揺らぎも、動かすという意味では同じという発想だ。
多岐にわたる様々な機能を実現してきたペンタックスのノウハウがあるからこそ生まれたアイデアともいえた。
「リアルレゾリューションの機能の進化だけを考えていたら出口は見つからなかったかもしれませんね」
手持ち撮影時の微小なカメラの揺らぎを利用し、その動きを精緻に把握して、4枚の画像を解析し、解像感の高い画像を合成する。ペンタックスならではの発想力で、手持ちでのリアルレゾリューション撮影は実現した。


ユニークであり、そしてオーソドックス。

「常に独自性のあるユニークな部分を大切にしながらも、正当に進化する部分も大切にする。それがペンタックスらしさだと思います」 それは、開発作業の流れだけでなく、常に可能性を追求していく技術開発の考え方にも生きている。
PENTAX K-1 Mark IIは、かつてない独創的な機能を備えながらも、その進む方向はフィールドカメラとしての極めてオーソドックスな進化の中にある。手持ちでのリアルレゾリューション撮影による三脚からの開放は、フィールドカメラとしての行動制限からの開放である。