GRシリーズの歴史の中でもっとも大きなモデルチェンジを受けたのは2回ある。2005年10月、フィルムGRの最終機のGR1vからデジタルGRの初代機のGR DIGITALに替わったときが1回目だ。そして2回目の大きなモデルチェンジが、2013年5月、「GR II」の前モデルである「GR」が生まれたときである。
それまでのデジタルGRシリーズはイメージセンサーに1/1.8型や1/1.7型の小型センサーを使ってきた。ところが「GR」では思い切って大型のAPS-Cサイズ判センサーを採用することにした。画素数は1620万画素で、高解像力描写のためローパスフィルターレスとした。と同時に新センサーの大きなイメージサークルをカバーするために、内蔵レンズも新規に開発されることになった。28mm相当の画角を持つ5群7枚構成の18.3mmF2.8である。フィルムGRからデジタルGRに替わり、イメージセンサーサイズが変わっても、初号機と同じ28mm画角の沈胴式単焦点レンズを継承し続けている。「GR」のために新開発された18.3mmF2.8レンズは新型の「GR II」にも継続使用されている。このレンズは高画質、優れた描写性能を最優先して設計されたもので、そこにはさまざまな「こだわり」が見られるのだ。
たとえばレンズ内に手ぶれ補正機構を内蔵させなかったことがそうだ。レンズ内手ぶれ補正は一部の光学系をシフトさせる。レンズの光学系をわずかでも上下左右にシフトさせれば光軸がズレて偏心が起こる可能性もある。大口径の広角レンズほど悪影響を受けやすい。それならPENTAX一眼レフカメラが採用しているようなボディ内のセンサーをシフトさせる方法を採用すればいいではないか、という意見もあるだろうが、しかしそうすればカメラボディの厚みも重さも増してGRシリーズの薄型軽量のコンセプトから外れてしまう。
もうひとつの「こだわり」はAF駆動のときに、5群7枚構成のすべてのレンズ群を同時に前後させてピント合わせをする全群繰り出し方式を採用していることである。いま、多くのAF対応のレンズは高速AF測距のために、ほんの一部の小さくて軽いレンズだけを駆動させるインナーフォーカス方式を採用している。この方式は高速AFのためにはメリットは大きいが光学性能的に見ればメリットはほとんどない。撮影距離によって画角が変化したり、近距離になるほど描写性能が低下するなどの欠点もある。それに対して全群繰り出し方式は厳密に調芯(それぞれのレンズの光軸を正確に合致させること)して組み上げて固定し、それを一体で前後させる。撮影距離の変化による収差変動はきわめて少ない。遠距離でも近距離でも描写性能が変わらないという魅力的な利点がある。ただし、5群7枚の構成レンズをそっくり前後に動かすわけだからAF測距スピードはどうしても遅くなってしまう。これが全群繰り出し式の欠点なのだが、しかしGRレンズの光学設計者は高画質を確保し達成するために、ユーザーに負担をかけることは百も承知の上で、あえてそうしたのではないだろうか。
カメラボディはGRシリーズの伝統でもある小型、軽量、薄型。頑丈で高級感のある仕上げは「GR」も「GR II」も、それをしっかりと受け継いでボディ外装はマグネシウム合金で覆われている。ボディのサイズを1/1.7 型センサーを搭載していた「GR DIGITAL IV」とAPS-C型センサーの「GR II」を比べてみると、「GR II」が横幅で約10mm、高さで約3mm、厚みで約2mm大きくなっているに過ぎない。センサーもレンズも大きくなり、カメラの内部機構も複雑になり、機能も増えているにもかかわらず「GR II」のボディサイズをそこまでにとどめたことは大いに注目してもいいだろう。
田中 希美男(たなか きみお)
フリーランスフォトグラファー。多摩美術大学・多摩芸術学園写真科を卒業。撮影分野は人物、風景、スナップなどを問わないが、車の撮影をもっとも得意とする。新型カメラやレンズのレポート、撮影ハウツウを雑誌などで解説。おもな書籍は、「デジタル一眼・上達講座」、「デジタル一眼・交換レンズ入門」(ともにアスキー新書)、「デジタル一眼レフ・写真の撮り方」(技術評論社)、「名車交遊録」(原書房)、「名車探求」(立風書房)など。写真展など多数開催。写真ブログ「Photo of the Day」やtwitter(@thisistanaka)で写真関連の雑感や情報を伝える。