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KOKO DOKO 60

伏見稲荷から深草の寺へ

名の通り、昔は草深い里だった伏見区の深草。
観光客もいない隠れた古寺で、京都らしい小さな旅を満喫しよう。
文・写真 = 内藤靖正

晩秋の伏見稲荷大社は多くの参拝客でにぎわっていた。修学旅行生のグループにも出合う。さらに、奥の院へ向かう千本鳥居の参道では行列ができていた。外国人も目立つ。

その人出をよそに、少し南の石峰寺は静寂そのものだった。本堂の後ろの斜面には、この地に隠棲(いんせい)した江戸中期の画家・伊藤若冲(じゃくちゅう)が描いた下絵を基に彫られた石仏群が、竹林のなかにさまざまな表情を見せる。ここは宝永年間(1704~11)に萬福寺の黄檗宗6世・千呆(せんが)が禅道場として創建。本尊・釈迦如来像を祭っている。

少し南へ行くと深草山(じんそうざん)と号する宝塔寺がある。寺伝では藤原基経(もとつね)が発願。昌泰2年(899)に藤原時平によって創建され、江戸初期の本堂には十界曼荼羅、釈迦如来立像、その左右に日蓮、日像の像を祭ると記されている。室町時代中期の総門や、天井に牡丹(ぼたん)画が描かれた朱塗りの仁王門、日蓮宗では京都最古という本堂のほか、参道の両側に続く塔頭(たっちゅう)など、多くの堂宇に圧倒される。

深草の住宅地のさらに南には、ここも深草山(じんそうざん)と号する日蓮宗の瑞光寺がある。もとは極楽寺薬師堂の旧跡だが、明暦元年(1655)に元政上人が日蓮宗の寺に改めたと伝える。本尊・釈迦如来座像を祭る本堂の寂音堂は珍しい萱葺(かやぶ)き屋根で、寛文元年(1661)に建立されたという。

JR奈良線の東寄りには、深草聖天の名の嘉祥寺がひっそりとたたずむ。ここは嘉祥4年(851)、文徳天皇によって創建され、秘仏の歓喜天と毘沙門天、弁財天を安置するところから開運招福にご利益があるとされ、広く信仰を集めている。

PENTAX K-3 smcPENTAX DA18-270mmF3.5-6.3ED SDM(26mm域)分割測光(F16 1/100秒)ISO200 WB太陽光 カスタムイメージ風景 TIFF

1目が覚めるような鮮やかな朱塗りの楼門。伏見稲荷大社は全国の稲荷神社の総本山だ。
2伏見稲荷大社と石峰寺の中間にあるぬりこべ地蔵。歯痛平癒のご利益があるとされる。
 
3中国ふうの赤門は禅宗様式の龍宮造り。本堂後ろの山に五百羅漢などの石仏群がある。
 
4極楽寺の名で「源氏物語」に登場する宝塔寺。七面山の上まで多くの堂宇が点在する。
       
5荒廃していた極楽寺薬師堂の旧跡を元政上人が瑞光寺に改めたとされる。静かな境内。
 
6文徳天皇が仁明天皇の菩提を弔うために、清涼殿の建物を移したと伝える嘉祥寺。
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KOKO DOKO 61

紫野の古社寺めぐり散歩

平安時代は桜や紅葉の名所だったという紫野に古社寺を訪ね、
船岡山周辺ではカフェなどの名店を探す小さな旅が楽しい。
文・写真 = 内藤靖正
PENTAX K-3 smcPENTAX DA18-270mmF3.5-6.3ED SDM(26mm域)分割測光(F16 1/80秒)200 WBオート カスタムイメージナチュラル TIFF

1清少納言が「枕草子」に「岡は船岡…」とたたえた船岡山。頂上から眺める京都市街。
2豊臣秀吉が織田信長の霊地と定めた船岡山に鎮座する建勲(けんくん/正式名・たけいさお)神社。10月には船岡大祭も。
 
3船岡山の北側に面した上り口。ゆるやかな坂道が建勲(けんくん/正式名・たけいさお)神社、さらに山頂へと続いている。
 
4雲林院は淳和天皇の離宮跡。在原業平を主人公とする謡曲「雲林院」の舞台でもある。
       
     
5源氏の始祖・清和天皇を祭る若宮神社。明治10年(1877)に雲林院町から移転した。
 
6玄武は青竜、白虎、朱雀とともに王城を守る4神のひとつ。惟喬社の名もある玄武神社。
   
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京都市街の北西に位置する小高い船岡山は、平安京を造営する際の北の基点で、朱雀大路(現在の千本通)の基準になったとされる。山裾にはいくつも上り口があり、平らな頂上には三等三角点「標高111・89㍍、北緯35度2分8秒756、東経135度44分40秒417」の標石が建っている。

頂上の東寄りに明治2年(1869)、明治天皇によって創建された建勲(けんくん/正式名・たけいさお)神社が鎮座する。祭神は織田信長。のちに子の信忠を合祀して本殿や諸舎を山頂に移したという。石段、あるいはゆるやかな坂道で神社や山頂をつなぐルートは、熟年らに絶好のウオーキングコースでもある。近隣の高校生もランニングで汗を流す。船岡山は思っていたよりにぎやかな聖地だ。

洛北を代表する禅刹・大徳寺の南に、この辺りの地名にもなる雲林院がある。平安時代には狩猟も行われた荒野に淳和天皇の離宮・紫野院が造られ、のちに仏寺に改められた。鎌倉時代に入り、その敷地に大徳寺が建立されるが、ここ雲林院では宝永4年(1707)再建の観音堂に十一面千手観世音菩薩像、大徳寺開山大燈国師像を安置している。

1筋東の大宮通には白菊大明神などの末社を擁し、清和天皇を祭る若宮神社が、そのすぐ東に文徳天皇の皇子・惟喬親王を祭神とする玄武神社がたたずむ。ここは平安京の北面の守護神として元慶年間(877~885)に創建されたと伝える。京都奇祭のひとつ、4月に行われる「玄武やすらい花」でも知られる古社だ。

ないとう・やすまさ
1933年、京都市生まれ。広告代理店勤務の折に趣味ではじめた小冊子が京福電鉄のPR誌になったことなどにより1972年に独立。京福電鉄や東映太秦映画村の広告制作を担当する傍らフリーペーパー「Kyo!」発行。京都ピイアールセンター代表取締役。