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K-3 Mark III Impressions

鹿野 貴司

僕の生まれは伝説的な飲み屋が軒を連ねる葛飾区立石、そして今住んでいるのは相撲と忠臣蔵の町・両国。人生の大半を東京の東半分、いわゆる下町で過ごしてきた。僕が子供の頃、隅田川流域は大きな倉庫や工場が立ち並び、それより東は小さな工場や木造住宅が密集していた。すでに多くがマンションに代わってしまったが、東京五輪が開催される(はずだった)2020年が近付くにつれ、残ったものも次々と再開発によって失われている。そんなとき写真家にできることといえば、ただ写真を撮ることである。ここ数年、街角でのスナップはもちろん、町工場から芸者衆まで下町のさまざまな場所を取材してきた。

今回K-3 Mark IIIの“初陣”として選んだのは、東京スカイツリーの真下にある竹問屋「竹春」さん。年末で門松作りに勤しんでいると聞き、職人の手仕事を撮りに伺った。その現場でK-3 Mark IIIはすでに何年も使っているかのように手になじみ、違和感なく操作をすることができた。今までいろいろなカメラを使ってきたが、長く付き合えたカメラ、いい仕事をしてくれたカメラは初めて構えたときから手に馴染む。K-3 Mark IIIにもたしかにその感触があった。

HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited F3.2、1/320秒、-0.7EV、ISO200、オートWB
smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited、F1.8、1/125秒、-0.7EV、ISO1250、オートWB
HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited F3.2、1/125秒、-1.0EV、ISO200、オートWB
HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited F4.0、1/160秒、-0.7EV、ISO200、オートWB

手に馴染む理由はデザイン性や剛性の高さもあるだろうが、それ以上に実感したのがボタンやダイヤルの絶妙なレイアウトだ。必要とする機能にすぐアクセスできるかできないか、それが狙った場面を撮れるか撮り逃すかにつながる。写真、とりわけドキュメンタリーやスナップは撮り手のメンタルが如実に写り込んでくる。ファインダーや操作部は写りに関係ないと割り切る人もいるが、ここまでセンサーや映像エンジンの性能が高まった今、撮り手の身体と接する部分が重要なのではないだろうか。

smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F2.0、1/125秒、-1.0EV、ISO200、オートWB
HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited F4.0、1/60秒 、-1.0EV、ISO3200、オートWB
HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited F3.2、1/100秒、-0.7EV、ISO640、オートWB
HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited F8.0、1/200秒、-1.3EV、ISO100、オートWB

ドキュメンタリーの撮影で僕が心掛けているのは、人物や風景が一番かっこよく見える構図や瞬間を探すこと。それから被写体との距離感だ。あまり近寄りすぎると全体が見えなくなり、かといって離れ過ぎてもチャンスを逃してしまう。だから絶妙なタイミングで近寄り、観察や会話をしてヒントを探る。もちろんすぐ撮れるようスタンバイもしておく。
K-3 Mark IIIは多機能だがシンプルで、操作や設定に変に気を取られず、自然体で被写体に向き合えるところが僕の撮影スタイルに合っている。

身体と密接な関係にあるといえば、視覚情報を得るファインダーだ。どのようなタイプのファインダーであれ、視認性はメンタルだけでなくフレーミング自体も左右する。いわば決定付ける作品の要だが、K-3 Mark IIIの光学ファインダーは視野が広く、かといって広すぎて視線をぐるりと一周させる必要もない。これはボディのサイズや画素数、連写速度にもいえるのだが、まさに“ちょうどいい”のである。どこが“ちょうど”なのかは人それぞれだが、誰しもある程度の幅があるはず。その幅と幅がもっとも重なり合う最大公約数に、K-3 Mark IIIはあるような気がする。

HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited F8.0、1/100秒、-0.3EV、ISO100、オートWB
HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F8.0、1/160秒、-0.3EV、ISO100、オートWB
HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F8.0、1/60秒、-0.3EV、ISO200、オートWB
HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F6.3、1/125秒、0.0EV、ISO200、オートWB

尖ったデザインやコンセプトを持ったカメラもおもしろいが、最大公約数を選択した一眼レフの安定感と安心感も写真家としては心が躍る要素である。一眼レフを“オワコン”という人もいるかもしれないが、僕は安定した技術という意味で使われる“枯れた技術”だと思っている。たとえば50年以上運用されているロシアの宇宙ロケット・ソユーズは、枯れた技術の象徴的存在だ。最先端の技術を盛り込んだスペースシャトルが退役しても、ソユーズは宇宙飛行士たちを夢や希望とともに運び続けている。優れた一眼レフというのは、まさにそのような“よき相棒”だと思う。レンズを通った現実がスクリーンに投影され、その場の空気をレリーズボタンでスライスするように切り取っていく。この感覚は良質なペンタプリズムを積んだ一眼レフでしか味わえない醍醐味だ。遠い昔ペンタックスLX(1980年発売)のファインダーを初めてのぞいたときのことを思い出したが、K-3 Mark IIIにもその系譜を感じる。

HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F8.0、1/250秒、-1.7EV、ISO400、オートWB
HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F7.1、1/60秒、0.0EV、ISO400、オートWB
smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F1.8、1/160秒、-1.7EV、ISO100、オートWB
HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR F8.0、1/320秒、-0.3EV、ISO100、オートWB
smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F2.2、1/125秒、-0.7EV、ISO1600、オートWB

Takashi Shikano
鹿野 貴司

Takashi Shikano

鹿野 貴司

1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。日本大学芸術学部写真学科非常勤講師、埼玉県立芸術総合高等学校非常勤講師。
主な写真展:「Tokyo Sunny Day」2003年・コニカミノルタプラザ、「甦る五重塔 身延山久遠寺」2009-10年・キヤノンギャラリー銀座・日本外国特派員協会など、「Beijingscape」2010年・エプサイトギャラリー、「感應の霊峰 七面山」2012年・コニカミノルタプラザ、「山梨県早川町 日本一小さな町の写真館」2016年・新宿ニコンサロン、「しましま」2018年・GLOCAL CAFE IKEBUKURO、「明日COLOR」2020年・ルーニィ247ファインアーツ

https://note.com/shikanotakashi

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