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写真三昧の池永が語る
知れば知るほどペンタックス

第2回
レンズの味は写真の味
FA Limitedがあるからペンタックスを使う

FA Limitedレンズとは


FA 31mmF1.8AL Limited
FA 43mmF1.9 Limited
FA 77mmF1.8 Limited

FA Limitedレンズは、31mm、43mm、77mmという既成概念にこだわらない焦点距離、独特の描写、アルミ削り出しの外観が特徴的なフィルム時代に作られた3本のPENTAXレンズの総称です。デジタル時代にあってこれだけ注目されているのは珍しいことと言えるでしょう。

これら3本のレンズは、官能評価によって作りあげられました。これが独特の描写を生み出しているんですね。企画当時でも、一般的にはレンズ設計の際に非常に膨大かつ緻密な作業が必要とするためコンピューターを使うのが常識でした。しかしこの3本では、その設計段階のすべてをコンピューターによるのではなく、敢えて設計者の官能評価で作りこんでいこうということになりました。

そもそもこのレンズが誕生したきっかけは、「小型・軽量なフィルムカメラのPENTAX MZ-3に似合う、格好良いレンズを作ろう」という話からでした。小さくて宝石のような存在感のあるレンズということでアルミ削り出しの外観でつくることになりました。とにかく既成概念にこだわらないということからとてもユニークなレンズの誕生になったわけです。開発には写真家の故大竹省二氏にアドバイスをいただきました。フィルム時代もライトボックスにリバーサルを並べるとFA Limitedで撮影したものはヌケがよく際立って色が深いために、違いを確認することができました。

FA Limitedの味付け

描写については「上品で緻密に写るレンズにしよう」ということになりました。緻密というのはつまり「拡大しても崩れていかない」ということです。それはいわゆる、現代的な解像度の高さとは異なります。今のデジタルのレンズというものは解像度を上げるためにエッジ効果を高めています。エッジ効果を高めるというのは、今のデジタルの世界においては解像度を上げるための常套手段です。しかしそれは、解像度を上げると同時により硬質に写るということなんです。

極論を言えば、デジタル用のレンズで髪の毛を撮るとシャープに硬い印象に写ってしまいます。しかしFA Limitedではどうかというと、数値的な解像度はそれほど高くはないにもかかわらず、拡大しても拡大しても緻密に写っているのです。それは、輪郭部を罫書く線を細くしているためです。解像度が低くても線が細ければ、緻密に写るのです。そうすることにより、触ると柔らかそうな髪に写るのです。

また、「ヌケの良さ」もFA Limited共通の特徴です。ヌケが良いということは、レンズにとっては非常に大事なことです。例えば、映画館で映画を見ている時を想像してみてください。周囲が真っ暗なので、ちゃんとスクリーン上の映像が見えますね。しかし、急に非常口をポンと開けた途端に外の光が入ってきて、よく見えなくなってしまいます。これがいわゆる「ヌケが悪い」状態です。反対に、完全に真っ暗でスクリーンが綺麗に見える状態が「ヌケがいい」ということです。

実際の写真撮影においては、ヌケが良いことでどのような利点があるかというと、ハイライトの中に、さらに明るいハイエストライトが際立って見えるようになります。つまり、より階調が広がるのです。それは暗い部分も同様で、暗い中にもさらに階調が出て来ます。ヌケの悪い状態では、それらの階調がベタっと潰れてしまいます。

このレンズの開発ではヌケをよくするために、鏡筒の中の墨塗りの墨の成分からこだわり抜いています。また、レンズとレンズの間を光が行ったり来たりしないように、ゴーストレスコーティングをかけています。要するに、光がレンズ内部でフレアを起こさないようにすることで、ヌケのいい状態を作っているのです。

また、43mmは別体のねじ込みフード、77mmは引き出しフード、31mmは一体型フードと、それぞれのレンズにこだわりのフードを装備しています。フードの内側には静電気で毛羽立たせて吸着するという静電植毛によって内面反射を極力抑える工夫が施されています。これもヌケの良さを追求した結果です。また、全てのレンズにはフードにかぶせるタイプのキャップを付属していて、キャップを外せばフードがついた状態ですぐに撮影が始められるよう配慮しています。

この3本のシリーズともに開放絞りがF2を切る明るい大口径になっています。当然ながらきれいなボケを引き出してくれます。にもかかわらず43mmと77mmのレンズのフィルター径が49mmで、31mmのレンズが58mmという小ささです。これらの大口径レンズがコンパクトに設計されている点も見逃せません。

ほかにも例がない焦点距離ですが、ここにも秘密があります。標準となる43mmに広角の31mmと望遠の77mmですが、実はそんなに広角でも、望遠でもありません。「目の延長線上になるレンズ」、つまり見た目の自然な遠近感で写真が撮れる、という焦点距離なのです。

FA Limitedレンズ共通の描写の特徴

線の細さ、緻密さ

ヌケの良さ、階調の広さ

きれいなボケを演出する大口径

自然な遠近感で写真が撮れる

43mm

見た目の自然な遠近感を表現する標準レンズで、最初にこの43mmから始めることをオススメします。絞りを開放にするときれいなボケを演出し、絞るとピリっとシャープに写るレンズ。それがFA Limitedの43mmです。

焦点距離の43mmですが、35mm判のフィルムの画面の対角線が43mmでこれにあわせています。というのも標準レンズはそのフォーマットの長さを焦点距離とするという考えがあります。だからフルサイズで使う理由があるのです。レンズ構成は6群7枚のガウスタイプ(左右対称に作るレンズ設計)です。PENTAXの場合は変形ガウスといって最後に1枚レンズを付け加えます。ガウスタイプのレンズは本来非常に素直にボケを出してくれるものですが、最後に1枚入れることで、ピシっとシャープに写すこともできるようになるのです。絞りを開放にすると柔らかく写りボケも綺麗で、絞るとキュっとシャープな写りも実現できるのです。その柔らかさを絞りでコントロールする楽しさもありますね。

FA Limitedレンズ43mmの特徴

見た目の自然な遠近感を表現する標準レンズ

77mm

77mmは、いわばPENTAXの技術のオンパレード。できることは全てやった、というくらいの渾身の製品です。
このレンズは「白Yシャツの貝ボタンの輝きを描写する」ことをテーマに作りました。要するに、ハイエストライトを表現するということです。それはもう、完全にヌケを良くしなければ実現できません。
また、より明るい白色の描写をするための工夫は他にもあります。
技術的な話になりますが、球面収差を波長ごとにコーティングで調整して収差のカーブが平行になるようしています。それにより色の滲みがない、白がより白に描写されるようなレンズが完成したのです。

また、77mmは赤も大変きれいです。赤がいいということは、肌色が出せるということです。ということで実はこの77mmですが、ポートレート撮影が一番適しています。

FA Limitedレンズ77mmの特徴

白の輝き、赤の深みと肌色の描写によりポートレートに最適

31mm

広角は絞ればキリッとした描写にしようと、テーマを「葉を落とした冬の裸木の枝先の先を写す」というレンズの解像力を求めるものでした。そのために光学の粋を結集。ガラスモールド非球面レンズや高屈折低分散ガラスなどを贅沢に用いて実現。開放F値が1.8にもかかわらずフィルターサイズが58mmという小ささです。それは従来の焦点距離という既成概念を外した結果できたことです。歴史上に残るレンズが完成しました。

単に画質さえ良ければ、どんなに大きく重くなってもいいのではなく、性能とコンパクトさを両立させたのが31mmです。特にスナップや風景を撮る方には、この31mmが絶対にオススメです。

FA Limitedレンズ31mmの特徴

開放のボケと絞ればシャープなスナップや風景に最適な広角レンズ

最後に

レンズとは、まるでそれ自体が生き物のように、メーカーの考え方をそのまま表現に変えていくものです。また、昔からレンズの味は写真の味だとも言って来ました。その味がなくなってしまうと、どこのメーカーで作っても同じものになってしまうでしょう。だからこそ、開発者がこだわった官能評価で作り込んだレンズだからこそ価値あるレンズと言えます。

筆者

池永 一夫
いけなが かずお

東京写真大学卒(現・東京工芸大学)、写真大好き人間。一日一写、写真俳句を日々の楽しみにしている。リコーイメージング株式会社リコーイメージングスクエア銀座勤務。武蔵野美術大学の非常勤講師を勤めるなど、カメラ、写真の講師としても活躍中。一滴会同人。

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