現在も撮影地ではフイルムでの撮影を楽しまれている多くの645ユーザーを見かける。品質、描写ともに絶対的地位を築いたフイルムカメラなので当然のことだ。ともなればデジタルへの移行も考えている方もなかにはおられるだろう。今までにコツコツと揃えたレンズ資産を有意義に使える645Dの「645AF2」マウントのメリットは大きく、ボディの交換だけで超高画質4000万画素の世界が堪能できるのである。
私はフイルムとデジタルの掛け持ちスタイルだが、ザックに645Dボディを1台追加するだけの最小限の機材ですむことで体力的にも助かっている。また専用アダプターを使用することで深みのある67レンズの使用も可能となり、67ユーザーにしても嬉しいシステムでもある。
一方で現行レンズがフイルム時代に設計されたものも多く、いささか描写性能への不安もあったが、そもそもsmc ペンタックスレンズの基本性能レベルは卓越しており、独自のマルチコーティングによる逆光時のフレア対策も優れている。
また、実画像は645フルサイズで設計されたレンズの屈折率の少ない中央部を使うので、色収差や歪曲収差も実用ではまったく気にならないレベルである。受光部のサイズの違いから、約1.3倍ほど望遠側にふれ、手薄となった広角側だが、周辺部までシャープな描写のデジタル対応D FA645 25ミリも新しく加わり心強いラインナップとなった。
超広角レンズ特有の見上げた樹木のラインに歪曲収差が出てしまったり、光の波長の違いによる偽色(色収差)が生じる「倍率色収差」だが、カメラ内の画像処理回路によって見た目に近い自然な状態に補正を行う。これはフイルム時代ではできなかったことだが、忠実な感動を再現してくれるという意味ではとてもありがたい機能である。
このたび発売されたD FA645 90ミリで冷たく堅い氷の撮影を試みた。ポートレートに適した柔らかな描写とのことなので堅く冷たい氷には不向きかとも思われたが、第一印象は氷の陰影に豊かな階調が乗るというもの。他のレンズでは白トビをしそうな明るい氷の屈折が見事にトーンを残している。フイルムを思わせる“粘り感”で、これにはいささか驚いた。そこには谷川の水の飛沫がゆっくりと重なり氷塊となる時間の経緯も見えるようだ。
また川面に反射する太陽の強い光や太陽を直接入れた渓谷の風景も撮影したが、新開発の“HD コーティング”と“エアロ・ブライト・コーティング”の併用によって、どのコマもフレアは皆無といってもよい。こんな夢のようなレンズが誕生したことも時代である。
風景写真では真実のなかにある感情の模索に醍醐味を覚えるが、これでどんな条件でもフレアを気にせず自由な発想が楽しめるということ。この新開発のD FA645 90ミリレンズによって新たな表現の扉がまたひとつ開いた気がする。