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レンズの力をより感じさせる。
描写性能を磨きあげた渾身の85mm

HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW

極限まで諸収差を低減した、卓越した描写性能の大口径中望遠レンズ

開発の現場から

『新世代のスターレンズ』として、PENTAXのレンズ開発技術の粋をあつめて開発された渾身の中望遠単焦点レンズ「 HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW 」。
各セクションの開発担当者が、開発における意気込みや、製品の魅力について語ります。

PRODUCT PLANNING

商品企画

「85mmF1.4」の製品化を決めた理由


岩崎

ファンイベントに行くと、以前ラインアップされていた「smc PENTAX-FA85mmF1.4ED[IF]」を愛用されている方によくお会いしました。とにかく良いレンズであるというコメントも多くいただきました。今のラインアップにはない85mmF1.4というスペックのレンズを、「smc PENTAX-FA85mmF1.4ED[IF]」とは描写のベクトルが違うタイプのレンズとして、さらにこれからの時代を見据えたスターレンズとして、圧倒的な性能を持つレンズをご提供したいと思いました。

PENTAXの新たな「85mmF1.4」誕生に至るまで

岩崎

このレンズの企画意図は明快で“とにかく性能の良いレンズ”としてはじまりました。自社・他社のレンズを撮り比べ、解像性能・ボケ具合など、方向性や味付けを吟味しています。多くのこだわりを持つ中で、実現方法が最後まで定まらなかったのは、パープルフリンジをいかにして少なくするかということでした。光学設計で何度も検討を繰り返しても、それはどうしても充分とは言えない。光学設計からは一番手前のレンズが正レンズとなっているレンズ構成では限界があるという意見も出てきました。じゃあどうするか…とさらに検討を重ね、最終的に一番手前のレンズを負レンズにした補正レンズ群を追加し、スーパーEDガラスを多く採用することで収差を抑えられる可能性があるということがわかりました。ほとんど光学設計ができている状態で、ここでまたレンズ構成を覆し一からやり直すかどうかの判断が迫られました。もともと思い描いていた高い理想の実現に対し、差し込んだ一筋の光明。
開発も企画も意見は一致し、”やり直す”ことを決めました。

『HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW』をどのように使っていただきたいか

岩崎

やはりなんと言っても人物、ポートレートを撮っていただきたいレンズです。普段ポートレートを撮っていない方にもこれを機にぜひチャレンジしていただきたいほどに。被写体をファインダー越しに見据え、明るさだけでなく立体感を感じられる上質なファインダー像を楽しみながら撮影していただきたいです。
撮影されたアウトプットは想像以上の美しさだと思います。カスタムイメージは「ナチュラル」か「フラット(デフォルトからコントラストを調整)」がおすすめです。また、ポートレート以外でも、木漏れ日など自然のライティングを活かした撮影をしてみてほしいですね。柔らかい光のコントラスト再現、フリンジが乗らずとても綺麗なボケ味などを楽しんでいただけるはずです。でも、太陽は絶対に見ないで(フレーミングを避けて)ください。大口径の中望遠系レンズということで、太陽を画面内に入れるとシャッター膜が焼けてしまうほどの光量が入りますので、とても危険です。

PRODUCT DESIGN

デザイン

新世代スターレンズにふさわしい在り方

渡邉

これは“新世代スターレンズ”の第1弾「HD PENTAX-D FA50mmF1.4 SDM AW」、第2弾の「HD PENTAX-DA11-18mmF2.8ED DC AW」からの流れとなりますが、過去のスターレンズにおいて作り上げてきた外観イメージをどのように新世代のレンズデザインとして落とし込んでいくか、その加減にとても気を使っています。大きく印象を変えてしまえばそれまでの系譜を感じ取れませんし、変化がなさすぎては世代の違いが感じ取れません。まずは、スターレンズならではの質実剛健さを踏襲しつつ、加飾部品を極力減らしてシンプルな造形を目指しました。レンズフードも製品の一部であることを意識し、専用レンズフードを取り付けた状態でレンズ本体と一体になるような形状とし、全体でより品位あるスタイリングにするよう心掛けています。そして、スターレンズのアイコンとして継承した象徴的なゴールドのリング、PENTAXレンズとして馴染み深いグリーンのリングについても色調や配置にデザインポリシーを設け、今後の“新世代スターレンズ”の拡充に向け、統一感と揺るぎない信頼感を演出しています。
つまり、これまでのレンズ製品の中に構成されていたデザイン要素を分解して見直し、これからのスターレンズとしてふさわしい在り方を模索して再構築した結果、現在のような新世代のスタイリングとなっています。

HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AWの外観デザイン

渡邉

本製品のデザインでは、前玉側の大きなレンズエレメントを無駄なく収めそれをデザインの特徴としています。また、マウント側からレンズ中腹にかけて配置されたボリュームのある内部機構を、同シリーズの50mmF1.4と同様のデザインテイストにまとめることにも注力しました。そして、レンズ着脱時にレンズを掴んで回転させる際に指掛かりとなることに加えて、レンズ自体の大きさや重量による操作性の低下を軽減するため、 「HD PENTAX-D FA50mmF1.4 SDM AW」のマウント側にはなかったローレットを追加。操作性を満足させたうえでシリーズとしての印象を統一させるべく、要素だけでなく全体バランスをみながら調整を重ねています。
機能的な側面ではレンズフードにもこだわりがあり、レンズ交換時や撮影途中に一時的に機材置く場合に、傷防止のための保護ラバーをレンズフードの先端に設置しました。過去のFA レンズなどに見られる工夫ですが、本レンズの撮影領域を考慮した場合にも有意義に機能するのではと考えています。

マウント側のローレット

前玉側のレンズエレメントを無駄なく収めたデザイン

フード先端には保護ラバーを設置

OPTICAL DESIGN

光学設計

大きな設計方針転換について

能村

開発の初期段階では、レンズの大きさに制約を設けながら設計を進めていました。例えば旧製品である「smc PENTAX-FA85mmF1.4ED[IF]」をベースにレンズエレメントを追加し、デジタル時代に応えることができる描写を目指していました。しかし、MTFはある程度向上させることはできても、軸上色収差は充分納得できるレベルまでは補正ができませんでした。 “DFA”の85mmF1.4に求められる描写として軸上色収差の低減を設計テーマの一つに挙げていたため、設計方針を大きく変更。レンズのサイズを抑えることに捉われ過ぎず、企画の岩﨑からの説明にもあったように、レンズ構成の選択肢を拡げてD FAレンズにふさわしい光学性能の達成を優先することとしました。さらに設計を進めていく中で、フォーカス群の重量やレンズ径の制約などの課題も抱えましたが、メカ設計とも何度もお互いの意見・アイデアを突き合わせ対応しました。

新/旧レンズ構成の比較

HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW

smc PENTAX-FA85mmF1.4ED[IF]

新/旧レンズのMTF比較

HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW

smc PENTAX-FA85mmF1.4ED[IF]

「smc PENTAX-FA85mmF1.4ED[IF](右図)」も高いMTFを示していますが、「HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW(左図)」のほうが低周波全体と高周波のMTFが全体的に高い値を示しており、シャープでコントラストの高いレンズであることがわかります。

課題を解決するためのレンズ構成とテクノロジー

スーパーEDガラス




最も物体側の負レンズ

能村

結果として、「HD PENTAX-D FA50mmF1.4 SDM AW」で採用した後群(フォーカス群)に変形ガウスタイプ、前群に補正レンズ群を配置する構成をベースとして採用することとなりました。
“スーパーEDガラス”を前群に2枚、後群に1枚配置することで色収差を効果的に補正し、加えて“非球面レンズ”を1枚採用することで球面収差や像面湾曲といった諸収差も低減し、画面中心から周辺部にかけて均一な解像性能とコントラストを実現することができました。“スーパーEDガラス”は取り扱いが難しくコストもかかる部材でもあるため、一つの製品に3枚採用したのは当社として初となります。
本レンズを手に取っていただくと目を引くと思いますが、最も物体側に負レンズを採用しています。色収差の補正には3枚のスーパーEDガラスの効果が大きいですが、この発散効果を持った負レンズが色収差も含む諸収差の補正に寄与しています。近年の同クラスレンズには素晴らしい性能の製品が多くベンチマークとしてありますが、フィルター径が86mmとなっているものも見受けられます。フィルター径を「HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WR」などと同等の82mmにどうにか抑えるこ とができたのも、この負レンズ先行による恩恵です。ただし、この配置の特性上、負レンズの発散効果により後方の光束径が大きくなるため、製品自体の外径が太くなりすぎないようにSDMの配置、フォーカス群の重量にメカ設計担当者と共に苦慮しました。

コーティングについても触れておきます。本レンズでは「HD PENTAX-D FA50mmF1.4 SDM AW」で採用している“エアロ・ブライト・コーティングII”を用いていませんが、『HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW』ではゴーストの低減をレンズ構成で解決することに力を入れながら、HDコーティングの効果を最大限に利用して内面反射の低減を図るとともに、PENTAXのレンズに求められる優れたカラーバランスを実現しています。

また、製造工程において光学系内の一部を動かして1本1本、球面収差の調整を行っています。球面収差の残存量によっては開放の描写がフレアによって柔らかくなりすぎてしまうことがあるため、好ましいフレア感と解像を両立させるべく、メカ構成や調整手法に非常にシビアな調整精度を要求することになりました。
そのシビアな要求精度に応えるメカ構成や調整手法をそれぞれの担当者が工夫を凝らして実現してくれたことで、この本レンズの描写特性・性能が成り立っています。

MECHANICAL DESIGN

メカ設計

大きな設計方針転換について


大荒

優れた光学性能を発揮するための鏡筒、内部機構や、撮影時のレスポンスや操作感を高めるため駆動系、その制御など、メカ設計上の苦労は少なくありません。

光学設計上の優れた性能を実現するため

大荒

大口径の中望遠系レンズということで、太陽を画面内に入れるとシャッター膜が焼けてしまうほどの光量が入ります。光束が太いため、シミュレーションすると光源がまったくの画角外にいても、鏡筒・レンズのコバなどのあちらこちらに反射し、そのままそのまま撮像面に向かうケースが多くなります。基本的には形状や反射防止塗装で解決していくのですが、例えば内部の形状で対策をしようにも光学設計上必要とされるスペースとの取り合いであったり、ようやく確保できたスペースに反射防止塗料を塗ってもフレアが発生し、塗料を厚くすれば工場側での生産性に支障が出たりと、形状変更や塗装範囲の見直しといった地道な作業を何度も繰り返すことで、克服できました。

85mmF1.4ということで非常に被写界深度が浅いレンズです。レンズの重さもあり、自重によるたわみで解像が変化したり、製造工程上の部品の組付け前後で解像が変わったりと、とてもシビアな精度要求に苦労しました。
途中途中でフレーム部品の再設計や、高強度な材料への変更、光学収差の調整や製造工程の最適化など、あらゆる方法を模索して製品化可能な精度を実現しました。

新開発の高トルクSDMの採用

新開発のSDM

伊藤

枚数が多く重い後側のレンズ群ごと移動するフォーカス駆動方式に対応するため、新たに専用のリング型超音波モーターを採用したSDMを開発し、搭載しました。「HD PENTAX-D FA50mmF1.4 SDM AW」で採用している約1.3倍の高いトルクにより、高速かつ滑らかなオートフォーカスを実現しています。また、モーターの開発と同時に、最適化した駆動ドライバーを開発しました。その効能として、同50mmF1.4よりも大幅な消費電力の低減を行うことができています。駆動系といえばそのトルクや駆動速度に着目されがちですが、付加する潤滑材を最適化し、材料や塗布条件なども確立することで耐久性、安定した性能の実現に寄与しています。

ストレスのない撮影を提供するために

内部には様々な課題を解決した機構を高精度に配置

大荒

8枚のレンズからなる後群(フォーカス群)の駆動機構では、「HD PENTAX-D FA50mmF1.4 SDM AW」に比較してフォーカス群の重量が1.4~1.5倍であるため、駆動停止に伴うレンズ群のガタ・アオリによる周辺象の変化を防止するために、テンションをかける機構がどうしても必要となってきます。ですが、駆動を伴う部分にテンションをかけるということは駆動速度に影響を与えます。そのため、駆動速度を低下させないために駆動機構の徹底的な効率化が必要となり、SDM伝達機構の変形対策、複数の連動レバーの配置、駆動カムのベアリング構造の採用、移動群の肉抜き軽量化などを行いました。また光学系についても移動量やレンズ重量の最適解を求めて、何度も光学設計とすり合わせました。
これらの地道な対策と、光学設計との連携によって安定したフォーカス駆動機構を作り上げています。

最終的に、機構の改良を重ねたうえで駆動制御によって「HD PENTAX-D FA50mmF1.4 SDM AW」と比較してもほぼ同じ加速・減速時間へ追い込みました。そのため、これらの製品のオートフォーカス駆動については、ほぼ同様のレスポンスが感じられると思います。
さらに、大きなフォーカス群をパワフルなモーターで動かす構成であるため、従来通りの通電・断電によるモーター制御では駆動開始時と停止時の音が目立ってしまうため、制御を工夫することによって静音化を図りました。このように、PENTAXのレンズ開発の歴史の中でチャレンジングな課題を多く解決することで、『HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW』の製品化を果たしました。

マニュアルフォーカス時にも快適な操作感を

大荒、伊藤

オートフォーカスの駆動だけでなく、マニュアルフォーカスでピントリングを回した際の操作感覚にもこだわっています。トルクの大きなSDMではSDMを押さえつけるバネの力量も大きくなり、マニュアルフォーカスの操作時の触感が鈍くなりやすいものです。触感を高めるためのスリップ機構や、SDM部材の材質、潤滑剤について駆動機構、SDM担当者で協力してテストを重ね、求めていた良好な操作感を実現しています。オートフォーカスだけでなく、ぜひマニュアルフォーカスでの撮影や、QFS(クイック・フォーカスシフト・システム)での追い込みも楽しんでいただきたいです。


HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW

HD PENTAX-D FA85mmF1.4ED SDM AW

極限まで諸収差を低減した、卓越した描写性能の
大口径中望遠レンズ