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K-3 Mark III Impressions

山内 悠

新しいカメラを手にする時。
この出会いは、これから新しい何処かへ向かうような気持ちがワクワクする。
このカメラがどこへ連れて行ってくれるのか、どんな体験をさせてくれるのか。カメラとの関係性や相性が、新しい旅、新しい世界へ導いてくれるからだ。

今回、このK-3 Mark IIIと出会うきっかけは、8年間ずっと通い続けて来た島での撮影を終えた船の上。長い一つの旅を終え、解き放たれたリラックスした状態の最中、PENTAXの新型カメラについての報せを受けた。このタイミングで新しいカメラを手にするという事、それは新しい旅の始まりだった。
そして、これまでを振り返り、僕は写真を撮ることについて改めて考えてみた。

中学生の頃から写真を撮り始めて30年。
なぜ僕は写真を撮り続けているのだろうか?

当時、父親の一眼レフカメラ(PENTAX ME)を借りて撮影をしていた。
初めてファインダーを覗いた時の感動を今でも覚えている。
見えている目の前の世界が、ファインダーの中では違う世界に見えたのだ。
それは単純にボケやピントがそういう風に見せているだけなのだが、多感な年頃の僕にとっては新しい体験だった。
まず、そのファインダー内に没入することが楽しかった。

さらに写真にのめり込んで行ったのは、その体験で撮影した写真が想像を超えて返ってくる事だった。
目で見ていた世界が、ファインダーを覗けば違って見え、さらに撮った写真はもっと違っていた事だった。
これも単純にシャッター速度や、絞りの関係性で生まれるブレや露出によっての作用だけなのだが、
それが意識を超えてくるようなビジュアルだった時、未知な世界を発見したような驚きと感動を覚えた。

今、僕が見ている世界は本当はどんな世界なのか??
今、僕が立っている此処は本当はどういう場所なのか??

現在、僕は自然の中に長期的に滞在し、
自然と人間の関係から写真を通してこの世界を探求することをプロジェクトとして行っているが、
僕が写真を撮るという事は、30年経った今も、昔から変わらずにこの世界に問いかけをするような行為なのかもしれない。


今回は、このカメラK-3 Mark IIIを持って、月の夜に自宅の近くを歩き、撮影を行った。

smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F1.8、8秒、-1.7EV、ISO400

クリアなファインダーが、そこに降り注ぐ月の静かな光を見せてくれ、
意識を広げさせてくれるような体験ができた。

ファインダー内に入り込むと、なんだか世界が分離され、分解されて行くような感覚がある。これは写真を撮り始めた昔からずっと感じている事だ。
そこに自分の呼吸、鼓動のリズムが重なり、
この鼓動を生んでいるエネルギーの源へと繋がって行く。

smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F5.0、30秒、-3EV、ISO800

目の前の光景、光学プリズムを通して入る視覚、重なる呼吸と鼓動、そしてエネルギー、

世界にある全てが外と内で光で繋がり、一つになるような瞬間がある。
この瞬間にシャッターを切った。
静かなシャッター音が、僕の問いかけに微笑みながら振り返ってくれるような余韻があった。

絶対的な存在の太陽に対して、月の存在は静かながら
僕たちの身体から地球の作用全てにおいて密接に関わっている。
体内のホルモン分泌や潮の満ち引きなど、打ち寄せる波。
波の数は1分間に18回。 そして不思議なことに、人が幸せを感じている時や安静時の呼吸の回数は1分間に18回らしい。

宇宙のリズムと同調する。

smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F8.0、25秒、-3.0EV、ISO6400

写真行為は、このような段階的な体験と、それぞれのアプローチがこの世界と重なる行為である。

カメラが開発されて様々な写真を撮るスタイルがあるが、
カメラによってその行為は変化する。
一眼レフだから得られる体験。知ることが出来る世界。

写真とは、PHOTO(光を)GRAPH(描く)であり、真実を写すと書く。

光によって成り立ち、物質として産み出された物は、
まさにこの世界の真理が詰め込まれている問いかけの返答であるのだ。

smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited F6.3、20秒、-3.0EV、ISO1600

今、僕が世界の此処に在るという事を実感できる。
だから、僕は写真を撮り続けているのかもしれない。

Yu Yamauchi
山内 悠

Yu Yamauchi

山内 悠

1977年、兵庫県生まれ。長野県を拠点に国内外で作品を発表している。
独学で写真をはじめ、スタジオフォボスにてアシスタントを経て、富士山七合目にある山小屋に600日間滞在し制作した作品『夜明け』(赤々舎)を2010年に発表。2014年には、山小屋で暮らし主人に焦点をあて、山小屋での日々を著した書籍『雲の上に住む人』(静山社)を刊行。2020年、モンゴルで5年をかけて撮影した写真を収録した『惑星』(青幻舎)を発表。
山内 悠ウェブサイト - yuyamauchi.com

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