K-3 Mark III Impressions
佐々木 啓太
私は街角写真家という肩書きをつけており、そこには何気ない場所を撮り続けて行くという思いを込めています。東京に住んでいることもあり、かっこいいと感じる街に撮影にでかけることが多く、そのかっこよさを切りとるというのがそのスタイルの根幹にあります。モノクロ写真がメインなのも、そんな何気ない場所をよりかっこよく見せるためです。
やはり最初に気になるのは画質です。このカメラを手に最初に出かけたのは夜の街角でした。夜景撮影というと三脚というイメージがあると思いますが、私は基本的に夜景でも三脚を使わずに手持ちで撮影します。デジタルカメラの高感度性能が良くなり、手ぶれ補正機能が入るなどその撮影領域は広がっています。最高感度がISO1600000と上がり、個人的に実用域だと考えているISO1600や3200での画質がさらに向上していると感じました。
今回の撮影はあえてカスタムイメージをナチュラルとモノトーンで通しました。これはこのカメラがイメージセンサーだけでなく、画像処理エンジンやアクセラレーターユニットという絵作りに関する部分が一新されているからです。改めてその基本的な再現性を確認したいと感じました。あとからイメージに合わせてカメラ内RAW現像などを使って仕上げたいと感じるイメージもありましたが(トップの写真はカメラ内RAW現像で仕上げている)、その基本性能の高さを確認することができました。
撮影するプロセスを楽しむ上では、自分のイメージ通りに撮れるというのが大切です。私がさらに気にしているのはカメラの収まりの良さです。これはボディが手に馴染むだけではなく、シャッターボタンの押し心地やシャッターの切れ味、ファインダーの見え具合など多くの要素が絡んできます。その意味でも今回のカメラの凝縮されたバランスは好印象でした。
色の表現は画質の問題になると思います。このカメラの画質で一番驚いたのはその繊細さでした。それは先の木々の写真を見ていただいてもわかると思います。その再現力は背面モニターで確認しながら鳥肌が立つような細かさでした。もう1つ、階調の再現性の高さにも驚きました。色というと鮮やかさなどその強さが気になることが多いと思いますが、私が被写体から感じている印象を再現するためには、繊細さや滑らかさといったディテールが欠かせないチェックポイントになります。
私が色の強さより繊細さや滑らかさを大切にするのはもともとモノクロオタクだからかもしれません。今回チェックした日の出前の空のグラデーションや逆光の紅葉など厳しい条件では求める条件はさらに厳しくなります。今回は新しい画質だと表現して良いと思いますが、それはとても安心して任せられるものでした。
私の場合は撮影対象は主に街です。そして、被写体というより光と対話しながら撮影しています。私は光の動きを感じることができます。それを捉えるのに必要なのは一瞬の間合いのような感覚です。そんな感覚を研ぎ澄ました撮影をしているときはカメラの反応も気になります。このカメラに感じた切れ味はとても心地よいリズムを作ってくれるので対話が弾みました。
今の私にとって光学ファインダーは欠かせない存在です。これは先の光に対する感覚に繋がっています。感覚は筋力と同じで加齢とともに落ちます。その後退を少しでも遅くするために必要なのは日々のトレーニングです。目の前の光をどのように残すかには露出補正だけでなく角度やタイミングが重要です。そして、絶えず変化する太陽の光を使うときは先を読む力も必要です。そんな感覚に適しているのが、このカメラのような優れた光学ファインダーを持った一眼レフカメラでのモノクロ撮影です。
PENTAXのブランドビジョンで一番好きなのは「写真を楽しもう」というところです。デジタルカメラになりスペックという数字だけがひとり歩きしているように感じることがあります。私は車やバイクも好きですが、それを楽しむ上で大切なのはエンジンパワーだけではないと思います。大切なのは全体のバランスです。「写真を楽しもう」という言葉にも、そんなスペックだけではない全体のバランスを求めた楽しむためのものづくりの可能性を感じました。
SASAKI KEITA
佐々木 啓太
Keita Sasaki
佐々木 啓太
1969年、兵庫県生まれ。高校を卒業後、写真専門学校に入学。貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。「写真はモノクロに限る」が口癖だが、デジタルではカラーやデジタルエフクトも活用しながら作品の幅を広げている。「街角写真家」として自身の作品発表の場として、毎年のように写真展を開催しながら、雑誌取材、カメラ雑誌の原稿執筆など、幅広く活躍中。
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