PENTAX K-1 Mark IIを使ってはじめに感じたのは、その画質がより繊細で滑らかになっていることだった。滑らかになったトーンは測定器の数値結果より、プリントを見ながら感じる官能評価の方がわかりやすい。そしてこの進化は FA Limitedレンズ の可能性をさらに広げてくれる。FA Limitedレンズの真価も数値的な評価より官能評価というプリントで見たときのトータルバランスにある。モニター画面の等倍拡大や測定器の数値で判断していては、この組み合わせの本来の魅力は確認しづらいと思う。

デジタルカメラの性能は測定器の数値的な結果に重きを置かれることが多い。そんな時代にあえて、フィルム時代、それも官能評価という悪く言えば曖昧な基準を元に作られた FA Limitedレンズ三姉妹(通称)を選ぶ理由は「楽しいから」。三姉妹には広角・標準・中望遠という、写真の基本を学ぶのに程よい焦点距離が揃っていて、他のレンズにはない個性をそれぞれが持っている。独特な焦点距離もその個性のひとつで、それをどう使いこなすかは撮影者次第。自分の関わり方で印象が変わるのが、三姉妹という女性に例えられた表現につながっているように思う。もう少し大げさにいうと、このレンズシリーズはマニュアル通りの使い方ではいうことを聞いてくれない。

三姉妹の個性を引き出す道のりは、自分らしさの発見という表現者のための道に重なっている。5軸5段の手ぶれ補正や防塵・防滴構造、視野率約100%でスッキリと見やすいファインダー、安心感のあるシャッターフィーリングと完成度の高かった基幹部分はそのままに、さらに繊細さと滑らかさが加わった画質は感じた光をより忠実に再現してくるようになった。そのすべてが FA Limited の秘めた可能性を開花させてくれるように感じている。

K-1 Mark IIは光を追い求める僕にとってかけがえのない相棒になりそうだ。

smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited
FA Limitedでは最後発のレンズで先の二本のレンズより広角レンズらしいシャープな味わいが特徴でトーンの再現力も高い。このレンズの特徴を活かすなら少し絞ってF5.6からF6.3ぐらいで使うのがオススメ。これぐらい絞ると画面全体の明るさは均一になりシャープなイメージがより際立つ。繊細さを増した K-1 Mark IIの画質の進化を最も感じるのがこのレンズとの組み合わせ。このレンズはしっかり者の末娘だと思っている。

01
曇天はコントラストが弱いのでモノクロには少し辛い条件。デジタル的な誇張をしたくなるが、このレンズとK-1 Mark IIの力を信じてできるだけナチュラルを心がけたが、その気持ちをしっかり受け止めてくれた。
使用レンズ:smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited

02
薄曇りで夕日は期待できないと諦めていると、西の空がかすかに光を放ち始めた。薄暮の淡い光を逃さないために、急いで撮影場所を移動して手持ちで撮影した。高感度耐性の向上は、こんな微妙な光の再現力の高さにも現れている。
使用レンズ:smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limited

smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited
FA Limited最初のレンズで絞り開放はF1.9と明るいながらパンケーキタイプの薄型レンズ。K-1 Mark IIに合わせた時のバランスは良いので常用レンズとしてもオススメ。標準レンズに近い焦点距離で扱いやすいという評価もあるが、僕はLimited史上最高の曲者レンズだと考えている。それは距離や絞りに応じたボケ味の変化が大きく、自分が求めている絵に必要な絞りが距離で変わるから。悩んだ末にたどり着いたのはプログラムオートで距離の差だけを意識する使い方。このレンズはちょっと変わり者の次女だと思っている。

03
春の木漏れ日を狙って公園を歩いていると、綺麗な光が差し込んでいる小道を見つけた。アイキャッチになる人を待っていると背後から天女の羽衣のような白いシャツをまとった女性が近づいてきたので、バランスを決めてワンショットで狙った。
使用レンズ:smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited

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夕方近くに工事現場入り口の扉を覗くとおしゃれなデザインが目に入ってきたので、このデザインのアクセントになる特徴的なビルが入るアングルから狙った。周辺減光を使って立体感を出すために、プログラムシフトで絞りはF1.9の開放にした。
使用レンズ:smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited

smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited
Limitedシリーズで最も好きなレンズ。特徴は素直さと柔らかいボケ味で、優しく滑らかな描写は最も女性的に感じる。絞り開放ではパープルフリンジがでやすいが、これはカメラ内RAW現像でコントロールできる。F1.8の開放絞りでは、日中の明るい野外で1/8000秒の高速シャッターでも露出がオーバーになることがある。しかし少し絞ると露出コントロールがしやすくなって、ボケ味の柔らかさを保ちながら画面の均一性も高くなる。このレンズはしっかり者の長女だ。

05
洋館の中にあるタイプライター。今は使われることはないが、使われていた時の雰囲気を感じながら窓からの光を活かした構図に決めた。ピント位置は「W」。ピント位置の繊細さとボケの柔らかさにこのレンズらしい味わいを感じる。
使用レンズ:smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited

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珍しく花(笑)。歩きながら見かけた紫陽花が綺麗なので自然とレンズが向いた。雨は降っていなかったが光が弱く優しい雰囲気が活きると感じたのが、そんな動きに繋がったのだと思う。しっかり者の長女はどんな被写体も器用にこなしてくれる。
使用レンズ:smc PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited

PROFILE
佐々木 啓太 (ささき けいた)
1969年兵庫県生まれ。日本写真芸術専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。現在は『街角写真家』という肩書きをつけて、雑誌での執筆をこなしながら作品作りに励んでいる。フィルム時代はモノクロオタク、デジタルでカラーにも取り組み始めた。オリジナルはプリントに限るが持論。
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