赤外線カメラ
赤外線カメラ「PENTAX 645Z IR」
お客様事例 奈良文化財研究所 様
赤外線撮影で感度をISO1600程度まで上げても画像が破綻しない
大型CMOS画像センサーが魅力ライブビュー機能によりピント合わせの精度が向上し
作業時間と人員の効率化も実現
奈良文化財研究所様は、文化財を総合的に研究する国立の機関です。とりわけ発掘調査によって研究を行う考古学の分野では、国内外の研究者にも研修を行うなど、中心的な役割を果たしています。同所の企画調整部写真室様も、地方公共団体の文化財専門職員や博物館学芸員、大学に対して撮影技術指導を定期的に行うなど、文化財撮影のエキスパートとして活躍。さらに、キトラ古墳や高松塚古墳、日本で最初の都城である藤原京や平城京など、古都・奈良を中心とした文化財の記録撮影を行っています。
特に実績のある木簡の撮影では、これまでの成果の一部が〝木簡画像データーベース〟として文字資料研究の基礎を担っており、その赤外線撮影機材としてPENTAX 645Z IRを活用されています。
導入の背景
木簡の文字を正確に解読するため赤外線撮影が必要でした
埋蔵文化財の調査、研究のための撮影を行なう奈良文化財研究所・企画調整部写真室様。
赤外線撮影で得られる文字資料情報は、遺跡の姿をダイレクトに伝える役割を果たすことがあり、研究には不可欠と技術職員の栗山雅夫様は語ります。
「奈良文化財研究所は、文化財を総合的に研究する国立の調査機関で、国立文化財機構の一翼を担っています。幅広い業務の中でも、平城京、藤原京、飛鳥地区のキトラ古墳、高松塚古墳などの遺跡の調査研究は、当研究所が主体となって継続的に行っています。
発掘調査現場は写真室が活躍する場所のひとつで、重要な遺物や遺構を検出した時に、写真撮影に出向きます。国際共同研究にも加わっており、現在は、中国や韓国、東南アジアの国々の研究機関と一緒に共同研究する中で、現地の遺物、遺構を撮影するというような仕事もあります。
赤外線撮影で多いのは木簡撮影です。木簡は、発掘現場で出土した時点では水で濡れていることが多く、長年土中に埋まっていた為、表面の汚れで判読できないようなことがしばしばあります。それを赤外線で撮影することでクリアに見えるようにするというものです。
また、キトラ古墳の壁画も赤外線で撮影しました。赤外線で撮影することにより、壁画がどのような描き方をされているかもわかります。画題や技法が明らかになることは、中国や朝鮮半島との繋がりを読み解く手がかりにもなるので重要です。
赤外線撮影は、精密なピント合わせが厄介で試行錯誤を繰り返しながら
アレンジしていました
精密なピント合わせが難しいとされる赤外線撮影。企画調整部写真室の元職員であり現在文化財写真技術研究会会長を務められる井上直夫様は、なかなか思うような機材が見つからないためテレビカメラを改造。自作のライブビューシステムを作り、赤外線撮影でのピント合わせを行っていたと語ります。
「PENTAX 645Z IR導入以前にも、ライブビュー機能がある他機種のカメラを使用していました。しかし、そのセンサーはCCDだったので読み出し速度が遅く、ピントを合わせてから画像が表示されるまでにタイムラグありました。ピントリングを回してからリアルタイムに画像が表示されないと撮影のリズムが崩れるため、それがストレスになっており、より使い勝手の良いカメラを求めていました。
また、画像を外部モニターに映し出せないというのも不便でした。そこで、私が考えたのですが、小型のテレビカメラを改造して赤外線を映せるようにしたものを、カメラのピントグラスに押し付け、その画像をモニターに映し出してピントを合わせるという作業をしていました」
導入による効果
ライブビュー映像を外部モニターに出力し、赤外線投光器を併用することで
文字の墨の痕跡までピントで追えるようになりました
PENTAX 645Z IRを2016年2月に導入。赤外線投光器を併用し、外部モニターにライブビュー映像を出力することで、文字が読めるだけでなく、筆跡や墨痕まで視認できるようになったと栗山様。
「レンズはPENTAX D FA645 MACRO 90mmを使用しています。デジタル専用設計というのはとてもよいですね。
ライブビュー機能、大型モニター、赤外線投光器の組み合わせでピントの精度が全く違います。木簡の文字が読めるだけではなく、筆跡や、文字の跳ねなど、細かい部分まで、鮮明に見ることができます。
以前はここまで鮮明ではなく、画像処理でシャープネスをかけたり、コントラストを調整することで対応していました。しかもHDMI端子が付いているので、直接画像をモニターに出力することもでき、とても便利です。パソコンを通すとタイムラグが生じるので、リアルタイムではなくなってしまいます」
ライブビューで即座にピントを確認複数人で担当していた作業が1人でも可能に
それまでは、複数のスタッフで撮影していた作業が、PENTAX 645Z IRのライブビュー機能により省力化できたと井上様はおっしゃいます。
「PENTAX 645Z IRを導入したことで撮影スピードが上がり、一日に撮影できる量が多くなりました。以前の赤外線撮影では、撮影した画像をモニターに送り、その後ピントを確認して、少しずつ合わせていくというやり方でした。
ですから、1人はカメラのところでシャッターを切り、別の1人はモニターでピントを確認して、さらにもう1人がライティングを調整するなど、3人がかりのこともありました。
真俯瞰の撮影も多いので、1人で撮影する場合はカメラとモニターを行き来しなければなりません。
文化財の撮影では、トラブルのもとになるので、あまり動き回らずに行うことが理想です。PENTAX 645Z IRはライブビューですぐにその場でピントが確認できるので動き回らず1人で撮影することも可能。作業的にも、人員的にも効率が上がりました」
選定のポイント
高感度に強いCMOS画像センサーやライブビュー機能により、撮影レベルが向上。
予算的にも削減できた
栗山様に、PENTAX 645Z IRを選定した理由を語っていただきました。
「もともと4×5(シノゴ)の大判のフィルムで撮影していたので、画質を求め点で、35mmフルサイズより大きいセンサーサイズのカメラが必要でした。PENTAX 645Z IRのよい点は画質だけでなく、多少感度を上げても画像が破綻しないことです。以前使っていた機種では、ISO800まで上げると画像が崩れ、ISO400でもかなり厳しいものがありました。しかし、PENTAX 645Z IRではそれくらいの感度なら、高精度な画質を保ってくれます。絞りとシャッタースピードの制約を受けることが多い文化財撮影では、高感度に強いという点は好都合だったのです」
井上様に、PENTAX 645Z IRを選定した理由を語っていただきました。
「PENTAX 645Z IRを採用した理由は、やはりライブビュー機能があることです。画像の描写にタイムラグがなく、また赤外線投光器を併用することで、外部モニターにもライブビュー映像を出力できるため、これまでのように改造をせずに赤外線写真を撮影できるようになりました。またライブビュー機能付きの他機種は、価格が非常に高額でした。その点PENTAX 645Z IRは、予算も抑えられるのが大きなメリットでした」
今後の展望
機材をコンパクトにして、出張先でも赤外線撮影を手軽に行えるようにしたい
「以前は、フェイルセーフのため35mmフルサイズのデジタルと、中判や大判のフィルムなど、いろいろなフォーマットで撮影していました。それがPENTAX 645DやPENTAX 645Zを使用してから、フィルムでの撮影は必要なくなったため今では行っていません。
カメラと周辺機材がコンパクトになり、出張先でも機材が軽量化できるので、いずれは赤外線撮影と可視光撮影をこの1台でやっていきたいという思いがあります。
また、PENTAX 645Z IRは、高感度にも対応できるので、光源がそれほど明るくなくても、小さな機材で撮影できるというメリットがあります。これなら、小型の赤外線投光器を改造して、それを光源にしても鮮明な写真を撮ることができるのではないかと期待しています(栗山様)」
お客様プロフィール
独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所 様
■業種:
文化財の調査・研究(職員数:79名)
■業務内容:
文化財の保存・修復・整備・活用及び、文化財の保存・活用を図るための発掘調査・研究・情報発信、文化遺跡の総合研究、国内外の発掘調査等に対する支援・協力等。