• ブランド
  • 製品
  • ストア
  • フォトアカデミー
  • コミュニティ
  • サポート
ペンタックスで綴る アパラチアン・トレイル 3500kmの旅 加藤則芳

開拓された景色が広がるヴァージニア

朝霧の森(ヴァーモント州)
真っ直ぐにそびえ立つアカマツの森(ヴァーモント州)
トウヒの森の湿原(ニューハンプシャー州)
19世紀末に建てられた開拓者の子供たちのための小学校
19世紀に開拓者が作ったログハウスがそのままホステルに使われている
現在は1350km地点
今、ヴァージニア州のウェンズボローという、ちょっとうらぶれた町に下りています。古い家々が立ち並ぶ、アメリカ南部の歴史をそのまま物語るような町です。
14の州を貫き続くアパラチアン・トレイルですが、全行程3500kmのなかで、このヴァージニア州の距離が一番長く、距離にして850kmほどあります。このウェンズボローという町は、ヴァージニア州に入ってから620kmほどのところにあり、ジョージア州を出発してから2か月余りで、1350kmほどを歩いてきたことになります。
風景には牧草地が広がる
さて前回、「ヴァージニア州に入ると、牧草地が増え視界が開け、風景の展開がはじまる」というようなことを書きました。もちろん、山また山の森歩きが続くわけですが、稜線の左右に見える景色は、牧草地の広がりであり、草を食む牛たちであり、そこに住む人々の生活の風景なのです。そして嬉しいことに、トレイルは時々山を下り、牧草地のなかを突き抜けます。
自然が好きで、自然をテーマに仕事をしているわたしなので、当然、手付かずの自然(ウイルダネス)が大好きなのですが、こういった人の生活の匂いがする長閑な風景も、また気に入っています。
日本の田園地帯がそうであるように、こういった風景は本当の自然ではなく、人が作った風景です。ですから、地球に生きる人間が自然と闘いながら、あるいは共存しながら作ってきた人工的な風景には、風景そのものに人の悲しみ、喜び、苦しみが織り込まれ、人々の壮大な歴史が読み取れます。
牧歌的風景もまた趣きがある
ちょっと前まで、あるいは今でもそうなのですが、人は自然の生態系をなにも考えず、利益のためだけに開拓してきました。この歴史を顧みれば、この風景もまた人間の決定的な過ちの象徴と見ることがきでます。そのような視点で見れば悲しみの自然でもありますが、かつての過ちを反省し、もっと知的で賢明な自然との付き合いをしていく必要があるでしょう。
でも、そこで生活をする人々の素朴な笑顔を見ていると、この風景は、どうしても長閑で麗らかで、平和な牧歌的風景でもあります。
さまざまなことを想いながらも、わたしはこの牧歌的風景をとても愛します。人と自然とが織り成してきた歴史の重さとは対照的なこの長閑さに心が安らぎ、いつも口笛を吹きながら歩き、ときに、草原に横になり、白雲浮かぶ青空を仰ぎながらハーモニカを吹いたりします。
今回は、そんな風景のいくつかのバリエーションをお届けしましょう。
2005年6月11日
[0] [1] [2] [3] [4] [5] [6] [event]
筆者プロフィール
加藤 則芳 (かとう のりよし)
作家/バックパッカー
NPO法人 日本トレッキング協会常任理事
NPO法人 信越トレイルクラブ理事
環境文学会 会員
1949年埼玉県に生まれる。大学卒業後、出版社勤務を経て執筆活動をスタート。八ヶ岳に移住し、自然保護の父と呼ばれるジョン・ミューアの研究に打ち込むなど、自然や自然保護、山歩きなどをテーマに、著書、テレビ出演などは多数におよぶ。アパラチアン・トレイルに関する取材、研究にも早くから取り組んでおり、名実ともに日本国内の第一人者。