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町家で暮らす日々 30
写真と文 = 水野歌夕

小さな庭を楽しむ

今、写真の展示スペースを広げるための分室をつくろうと、路地に面した小さな町家を模様替えしている。そこには庭というほど大げさなものではないが、通気や採光のための屋根のない小さな空間がある。町家は、昨今の一棟建て住宅とは違い、鰻(うなぎ)の寝床と呼ばれる細長い敷地いっぱいに、店の間のある表棟、座敷や居間のある棟、お風呂などの水回りのある棟を分けて構成していることが多い。そしてそれらの棟の間に、通気や採光のための坪庭があるのが特徴なのだ。さてこの小さな空間、測ってみると180cm×200cm四方の広さで、ちょうどエアコンの室外機を置くのに便利だ。しかし室外機があると狭苦しい。どうしようかと思案していたところ、大工さんが壁面の二階近くまで室外機を上げ、見えないように設置してくれた。

すると空間が、思った以上にすっきりして、家族は皆「和の庭にしたら」「この際やし、もっとすっきりして石だけ置いたら」と俄然(がぜん)イメージがわいてきた様子である。また、水はけの問題から土の露出をなくし、セメントで仕上げた方が良いという大工さんの勧めがあった。その制約が却って「土や植栽がなくてもいいんと違うか」「簡単に出来て、後も手間のかからへん庭もええかも」「お花を一輪生けられたりして楽しめる庭にしたいわあ」などのアイデアを生んで楽しくなってきた。もともと庭好きな家族、庭のことになると議論が白熱してくる。

そんな庭に対する思いを、いつも根気よく一つにまとめて、実にバランス良く、上品に仕上げてくれるのが、中島造園「植康」さんだ。庭の設計から蹲踞(つくばい)や役石の種類、配置、細かいことまで、皆が口々に好き勝手なことを言うのだから、「植康」さんには、たまったものでは無いと思う。けれど最終的に、絵になるよう、ほれぼれと仕上げてもらえるからありがたい。

これだから庭づくりの楽しみはやめられない。そして、こうした町家暮らしの楽しみには、それを支える庭師さんや大工さん、腕の良い職人さんたちの存在が欠かせないと、つくづく思った。

凝らないで、シンプルに。驚くほど短時間で出来た庭は、イメージした以上の仕上がりだった。水を打つと、中央に置かれた鞍馬石の蹲踞が、一層引き立つ。小さな空間が、すっきりとした庭にさま変わり。

 

セメントを流して、仕上げ中の宮島工業さん。いつも無理難題、細かいことまでお願いするけれど、アイデア豊富な親方をはじめとする職人さんが、なんとかしてくれて大助かり。

 

今回は土を掘って石を埋め込むことが出来ないので、底が平らで、なるべく厚みのない石を選んだ。中島造園さんが息子さんと一緒に施工してくれた。
みずの・かゆう
写真家、エッセイスト。1969年京都市生まれ。佛教大学文学部史学科卒業。京都現代写真作家展において大賞、準大賞、優秀賞を受賞。2001年から一年間、京都新聞に写真とエッセイ「京都ろーじ散歩」を連載。初の写真集「京の路地風景」(東方出版)が好評。水野克比古フォトスペース「町家写真館」館長。