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町家で暮らす日々 22
写真と文 = 水野歌夕

雛料理

三月三日、上巳(じょうし)の節句に母と娘とお雛さんのお料理をつくった。我が家の雛(ひな)のお膳(ぜん)は、小豆ご飯に、シジミのおすまし、アカガイとトリガイのてっぽうあえ、身シジミのたいたんに白酒、鯛(たい)のおつくり。それにばら寿司(ずし)や小巻(こまき)、だしまきに雛板(ひないた)、お菓子はひちぎり、それに生の笹(ささ)ガレイをつけると決まっている。雛板は、花模様などのついた小さなかまぼこである。引きちぎった形から、ひちぎりと呼ばれる雛のお菓子同様、この時期だけお店に並ぶ。また、ひちぎりや、生の笹ガレイは、以前は、雛祭りに遊びに来た女の子たちが家に帰る時、半紙に包んでお土産に持って帰るのが習わしであった。

料理の作り方は素朴で、身シジミのたいたんは、買ってきた身だけのシジミをぬるま湯で洗い、お鍋でいって少し水気を飛ばしたら、お酒をふりかけて、次にお砂糖と薄口醤油(しょうゆ)で味をつけて、最後に刻んだ土ショウガを入れてまた水気がなくなるまでたいたら出来上がり。てっぽうあえは、先ず練りがらしと白みそを練り合わせ、そこにお砂糖を混ぜお酢でのばして、辛子(からし)の酢みそをつくる。次に湯がいたワケギを絞り適当な長さに切ったら、お酢で洗ってぬめりを取ったアカガイとトリガイの細づくりを加えて、酢みそとあえるだけである。簡単とはいえ、微妙な味加減の違いか、自分だけではどうも母のようにおいしくつくれないのではあるが・・・。

出来た料理は、ままごとみたいに小さいお雛さんのお膳やお重と子ども用の小ぶりのお膳にも盛りつける。とにかく雛料理は、貝はシジミを使い、雛板や、だしまきも小さくという具合に何でも可愛らしい。そして母や娘と女同士で、あれやこれや、わいわいと言いながら用意するのが楽しいのだ。

みずの・かゆう
写真家、エッセイスト。1969年京都市生まれ。佛教大学文学部史学科卒業。京都現代写真作家展において大賞、準大賞、優秀賞を受賞。2001年から一年間、京都新聞に写真とエッセイ「京都ろーじ散歩」を連載。初の写真集「京の路地風景」(東方出版)が好評。水野克比古フォトスペース「町家写真館」館長。
五節句の一つ上巳は、元来中国にあった上巳の日に川辺に出て身を清め不浄を祓(はら)う習慣が、平安時代に日本へ伝来したものとされる。それが人形(ひとがた)に穢(けが)れをうつし水に流す行事に結びつき、やがて流し雛や現在の雛祭りが生まれたという。
 
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お雛さんのお膳に、生の笹ガレイを添えて。向かって右上が鯛のおつくり、中央がアカガイとトリガイのてっぽうあえ。左上が身シジミのたいたん、手前右からシジミのおすまし、白酒、小豆ご飯。
 
お雛さんのお重にばら寿司、小巻、小豆ご飯などをつめる。この可愛らしい蝶の柄の手提げ重は、私が娘を出産した時、お世話になった産婦人科の女医の先生が幼いころ愛用されていたものを下さった。思い出深い品である。